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「大変だぁぁ! わ、私の宝石が盗まれた!」
「どうされました?! 私は乗客ですが警察官です。よろしければ力になります」
「カバンに入れて客室に置いてあった大事な宝石が無くなったんだ! 代わりに『宝石はもらった』というメモが残されて! ちくしょう、こんな洋上の豪華客船で泥棒に遭うだなんて! 時価3千万円の逸品だぞ」
「落ち着いてください。幸いここは海の上。犯人は逃げようがありません。じっくりと捜査して……」
「待て! そもそも、こんな船にそんな大切な宝石を持ち込む方が常識外れだと思わんかね? だいたいだね……」
「いきなり現れて失礼な。あなた誰ですか?」
「うむ。私こそが数々の事件に評論をしてきた、その名も明智小言!」
「そーゆーのは壁にでも向かってやってろ! 今必要なのは事件の解決なんだ!」
「ふふふ……! この事件、私が解決してやろうか? ただし報酬は被害金額の30%だがな!」
「何?! 誰だお前! というかその成功報酬はボリすぎだろう。いったい何者だ?」
「よくぞ聞いてくれた。私は名探偵・金が田一!」
「いや、絶対お前パチモンだろうが!」
「失敬な! よければ解決できるかどうか賭けをしてもいいぞ? 私が賭けるのは祖父の名前だ!」
「いや『名前をかける』って、そういう意味じゃねーだろー! 誰か他にいないのか?!」
「あの、もしよければ私が力になりましょうか? これでもスコットランドヤードに勤務していましてな」
「おお、何となく頼もしそうな! さぞかし沢山の実績がおありなんでしょうね」
「ええまぁ。100回やれば1回くらいは真犯人を突き止めます」
「いや、確率悪すぎだろ! 誰だあんた」
「私の名前は、マグレ警部といいまして」
「まぐれで捜査するのかよ! 他にいないのか!」
「ほほほ! よければ私が」
「おお、これは老婦人。もしやあなたは?」
「ええ、椅子に座ったまま推理することで世界的に有名ですの。で、死体は何処ですの?」
「すいません、話を聞いてませんでしたか? これは盗難事件なんです」
「ああ、これは失礼。間違えてしまいましたわ。何しろ私はミステイク・マープルと申しまして」
「そっちのミスかよ! 致命的にダメじゃねぇか! 他には?!」
「よろしければ私が。ロンドンのべーカリー街で探偵をしておりました」
「べーカリーって、パン屋かよ! つか、今は現役じゃないんで?」
「いえ、現役ですが依頼がなくて事務所を追い出されたんです」
「頼りないな! 誰ですか、あなたは」
「私こそが、かの名探偵・ホームレス!」
「まずは定住先を決めるのが先だろ! つかパチモンが多すぎだろ! 他には?!」
「いや、うちのカミさんがね。こういう場合は手っ取り早く適当なヤツを適当な理由で拘束してから調べ上げればいいんだって言うんですよ」
「いや、むちゃくちゃ言うなアンタの嫁さん。てか、あなたは誰です?」
「あたしの名前は刑事・転び公妨って言うんですがね」
「冤罪事件作ってんじゃねーよ! つか、あんたは殺人課じゃないのか?! もう他にはいないのか?」
「うーむ。この事件は妙だな。何でわざわざこんな逃げ場所のないところで?」
「おや? えらく小柄なヤツだが割とまともなことを言うな。君は誰だい?」
「僕は、どんな簡単な事件でも必ず複雑にして迷宮入りさせてしまう天才。事実は無限、人呼んで名探偵・コンナン!」
「わざと困難にしてどうする! 邪魔なだけじゃねーか! 帰れ!」
「旦那、何ならあっしが出張りましょうかねぇ」
「おお、この時代に丁髷頭の着流し姿とは珍しい。しかも手に持っているのは十手ですかな?」
「へい。あっしはとことんまで『この姿』の再現を目指した、その名も偽形平次と申しやす」
「いやもう、それただのコスプレじゃねーか!」
「はーはははは! 折角、その道の有名人を集めたと思ったがロクなヤツがいないな! これでは盗み甲斐もない」
「だ、誰だ貴様は?! その黒マント、もしや貴様が犯人か?」
「如何にも。どんな獲物を相手にしても全力を尽くす完璧主義者の怪盗なのだ!」
「何だと? ではこの事件は最初から仕組まれていたというのか?」
「その通り! 客船のチャーターから全て私が舞台を整えたのだ! 抜かりなぞない!」
「この豪華客船をチャーター? それ、いくら掛かるんだよ!」
「うむ。約1億ほど掛かった」
「宝石は3千万円だろうが! 費用対効果悪すぎだろ!」
「そこが問題でな。いつも仕事終わりには債務整理に追われる身だ」
「何のために泥棒しているんだよ、無意味だろうが! 誰だお前?」
「よくぞ聞いてくれた。普段は生活費にも困窮するネカフェ難民、人呼んで『怪盗・ハサン』とは私のことだ!」
「泥棒で自己破産してんじゃねぇよ! もうやってられんわ!」
……おあとがよろしいようで。
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