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彼女が初めて僕の部屋に来た日のことだ。
彼女が本棚を見ている時、雑誌なんかと一緒に置いてあったアルバムに気づいた。切手の収集用のものだ。
「切手なんか集めてるの?」
「まあね。たいしたもんじゃないよ」
収集といっても親戚にもらった綺麗な切手を入れてあるだけで、いわゆる「見返り美人」のような高額なものがあるわけではない。
何気なく見ていた彼女が、ふと何かを見つけたような顔をした。
「大事にしてね」
そうひとこと言ってアルバムを棚にしまった。
何のことを言っているのか聞けなかった僕は、彼女が帰ってからアルバムを見てみた。
彼女の目にとまるような切手なんてあっただろうか。色々見てみたがわからなかったので閉じようとした時、隙間に一枚の紙が張り付いていたのを見つけた。
これだ、と思った。
何でこんなところにあったのかわからなかったが、それは中学生の時、彼女がくれた唯一のラブレターだった。
たった一枚の紙に、何の飾りもなく「好きです」と書いてあるだけのラブレター。
僕は昨日のことのように思い出した。
放課後、誰もいない教室で彼女はその一枚の紙を無愛想に僕に渡し、なぜか泣きながら走って出て行ったんだ…
こんなところで見つけてしまって彼女はどう思っただろう。怒った感じはなかったけど、「大事にしてね」と言うセリフは何だったんだろう。
考えてもわからなかった僕は、ラブレターを書いてみようと思った。自分の手で彼女に対する思いを書いてみよう。直接渡すのではなく、このアルバムに集められた切手を使って送ってみよう。
きっとどんな言葉より喜んでくれるはずだから。
THE END
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