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いつものように始まった作業中、タキは異変を感じた。
廃棄物の裾野を滑り降りると、ずんぐりとした機体が風など入り込むはずもないのにカタカタと震えている。
「大丈夫。私の名前はタキ。怖くないよ。危害も絶対に加えない。だけど生きている者にここは危険だ。早く出なくちゃいけない」
タキが力づくで開いた中からは、垢だらけひび割れだらけでやせ細った10才ほどの少年が身を固くして蹲っていた。
彼の名前は結人。マージナル特有の色別信号がないので人だった。故郷は戦場の真っただ中で、銃弾から逃げるためにシスナルの残骸に隠れていたら、眠っている間に都市へ回収されてしまった。
「もし私が気づけなかったら、君はあの中で原子の粒になるところだったんですよ」
それを自ら望む尊厳死もタキの業務領域で、人の権利として認められていた。だから事実として伝えただけだが、結人の顔は恐怖で強張った。
作業所から助け出されて二日目。彼の身柄は医療福祉局で一旦預かられ、都市管理局に移されて、タキが再び迎えに来た。
結人はおずおずとタキの手をとってそうっと見上げた。
「これから僕はどうなるの? このあとどこへ連れて行かれるの? 兄さんたちみたいに戦争へ行くの?」
見違えるほどに小奇麗で健康的になったというのに、結人の表情は暗い。戦場周辺地では到底勝ち目のない戦いを前に、若い兵士たちへ性接待や豪勢な食事を与える習慣がある。結人の不安はそれらを実際見てきた経験則からくるものだった。
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