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青いツナギの作業服を着て、薄暗い作業場へ続く螺旋階段をゆっくりと降りていく。それがタキの一日の始まりだ。
螺旋の金属製階段の先には破損した鉛色の人形が山積みされており、静かな作業場には機械の音もない。タキの安全靴の足音だけが響いていた。
この人形はシスナル。世界のあちこちで起こっている人と人の戦争の代理物だ。
タキが住む人工都市には資源がなく、外に出ることも戦争に介入することも国際法上許されていない。だから打ち捨てられたシスナルを集めてリサイクルし、資源を確保している。タキの仕事はその解体だった。
タキは山積みの頂上に降り立ち、手首を曲げて両腕を広げる。人形が青白く光り始めた。その中に命の気配がないことを確認して呟く。
「詠唱開始」
号令と共に空間に周辺に付随した機構が動き始めて地の底を這うような低音が響き渡る。
「塵は塵に、金は金に、砂は砂に、全ての形あるものは原初の粒に戻り、再度結晶と化す」
人形が白く輝き、作業場全体が光で満ちた。
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