曇狼月冴の困惑

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「SAKUYAMARYU?……サクヤマリュウってオンラインプレイヤーランキング一位の?」  モニターに表示されたネームを読み上げる、見覚えのある名前だった。 「お、曇狼よく知ってるね! このゲームを四楓院先生に勧めたのオレなんだけど、その時に作ったのがこのプレイヤーネームなんだよね。今日みたいに三人でゲーセン来ててさー。さすがにランキング一位を不動のものにしてるなんて思わなかったけど!」  龍先輩が楽しそうに話してくれる。  拓海が『何回挑戦しても勝てない相手がいる』って言ってたけど、まさか倭斗先生だったなんて。  プレイヤーネームから推察すればそれは名前の朔夜・倭斗・龍之介の頭だけをとったものであるとすぐに分かる。それにしてもすごいな……。 「ちょっと意外でした。四楓院先生もゲーセンとか来るんですね?」  昭彦がようやく音を取り戻したように口に出す。  言われてみれば、倭斗先生とゲーセンってあまり結びつかないかも? まだインターネット喫茶の方がわかる気がする。 「こう見えて案外多趣味なんやで、料理も出来るしアイロンがけも得意や」 「え゛っ!? 教職者ってクリーニング屋の常連じゃねえの?」 「長濱それは偏見じゃない?」  亮平の言葉に龍先輩がすかさずツッコミを入れる。  一瞬ポカンとして、倭斗先生はそんな言葉を散らすように片手を面前でヒラヒラ揺らして口角を引き上げた。 「俺な、天涯孤独なんよ。親戚もおらへんし。だから自分ひとりでなんでも出来んとあかんの。買い物やろ? 洗濯に掃除、あと朝のゴミ出しな」  指折り数えつつまるで世間話みたく告げてくる。  きっともう、寂寥感も何もかも吹っ切ってしまったのだろう。普段から笑ってこちらの悩みを聞いてくれる人なだけに、やるせなく思う。  そう思ったところで、俺が出来ることなんて、なにもないのだけれど。 「先輩たちはなんで?」 「朔のバイトまでの暇つぶしっていうか。一緒に英にぃのお店でランチして、その帰り。四楓院先生の最寄り、新星だからね。朔のバイト先の工務店もこっちだし」 「マスターんトコで解散っつー話だったんだがな。まだ暇とか言ってついてきやがって。お陰で……」 「な に か 言 っ た ?」 「……別に」  なにか言いたそうにする朔夜先輩を龍先輩が笑顔で黙らせてしまう。  美人は違うベクトルの迫力があるって言うけど本当なんだな……。  そうこうしているうちに倭斗先生がデッキに置かれていたアミューズメントカードを取り上げた。サコッシュくらいの大きさのショルダーから取り出したお財布にカードをしまって、またお財布をショルダーに戻してから、席を立つ。 「俺らもう行くけど、あんまりハメ外し過ぎんとな? 新学期元気な姿みしてや。あ、姫乃井、泰正さんに今度また飲みましょって伝えといて」 「あんま遅くまでいんじゃねえぞ」 「みんなまたね!」  ヒラリと後ろ手に右手を揺らし、コーナー傍の自動ドアから連れ立って出ていく三人を見送る。
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