曇狼月冴の困惑

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「尚斗、卵って言われて生卵って選択肢なかったのかな? もし指定がなくて卵ならなんでもよくて、しかも自分が好きなのでって考えたんだとしたら……好物って事?」  好き嫌いが激しく少食な彼の好物が図らずも知れたことは、言ってみれば〝棚からぼた餅〟であるものの、尚斗だって何日も連続で同じものが食卓に出て飽きないとは考え難い。 「とにかくピカタを作るのは中止。温泉卵を使ってしかも冷蔵庫の中身で作れそうな夕飯……作り置きは親子丼にしようと思ったけど仕方ない、今日は焼き鳥丼と味噌汁にして明日は……あー、そうだ明日は昭彦たちと約束してるから泰正さん用に副菜で五目豆ときんぴらを……」  ぶつくさ独り言ちる。  尚斗と付き合うようになって1ヶ月とちょっと――夏休みの間は部活に行く以外特にすることもないため、しばしばこうして姫乃井家に訪れては夕飯を作って自分も御相伴に預かっている。  姫乃井家は早くに女手を亡くして泰正さんと尚斗の男所帯だ。  勤務日数の少ない泰正さんが家事を担っているけれど、主食は抜きにしても料理はどうしても副菜に偏りが出るし、尚斗は家事そのものにできることが限られている上に、本人は極度の辛い物好きで、その上偏食の少食ときた。  出会って間もない頃に昼食をホットコーヒーと激辛せんべいで済まそうとしていた尚斗に、あれこれ世話をして以来、彼の食生活が心配になり今に至る。    スマホで時間を確認すると、ちょうど十七時を回ったところで、指導員勤務で出勤している泰正さんの帰宅まで残り一時間ちょっと。 「泰正さんが帰ってくる前に作り終えておかないと」  腕まくりをし、食材を取り出す為に冷蔵庫を開けると、そのまま手際よく夕食作りに取り掛かった。
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