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「つうか、一体誰と対戦してんだって……」
ヒョイ、と尚斗が反対側を覗き込む。その尚斗の動きがピクリと顕著に揺れたかと思えば静止した。
「……大人げねぇな、アンタら」
その言葉に俺を揺すっていた亮平の動きがピタリと止まった。
トーテムポールみたいにして尚斗の後ろから、俺、亮平、昭彦で反対側を覗き込むと、そこにはアーケード機の前に座っている短髪の男の人と、彼の後ろに立ってアーケード機を睨み据える男の人、そして愉しそうに口元を緩ませている見目派手な男の人がいた。
「「「先輩たち!?!?」」」
「あ゛? なんだ、お前ら。いつからいやがった?」
「あっ、やっほー☆ 夏休みを満喫してるようで感心感心」
じっと険しい視線を向けてくるその人は、俺たちがよく知る一つ上の先輩、秋月朔夜さん。
そしてもうひとり、こちらを見てぱちんとウインクを飛ばしてきたのは、志賀龍之介さんだ。
「まさか亮平の相手が先輩たちだったとは」
さすがの昭彦も開いた口が塞がらないらしい。都心部のゲームセンターは一箇所ではないはずなのに、こんな限定された場所で顔を合わせるなんて世間は狭い。
「今日はお友達と一緒なんですか?」
「友達? おいお前ら、日頃から世話になってるクセに忘れたとか言うんじゃねえだろうな?」
「へっ?」
俺の言葉に先輩たちの背後でクスリと笑い声が漏れる。
「まぁ仕方ないんとちゃうか? 俺が誰だか分かってるの、多分姫乃井だけやと思うで?」
「なんでそこで俺に振るんですか」
ウンザリした声を上げる尚斗の眉間に深々と皺が寄る。
あれ、でもこの声どこかで聞いたような?
「ひょっとして……倭斗先生?」
少しだけ思案してからそう告げると、昭彦と亮平が一斉に俺を見る。
漫画なら『ぐりんっ』って効果音がつきそうな勢いで。
「正解。まぁさか生徒に出くわすなんてなぁ」
「あっはっは」と軽いノリの笑いを発する。
この独特のイントネーション──倭斗先生だ。朔夜先輩と龍先輩が隠していた倭斗先生をよく見えるように脇に避けてくれる。
そう言えば前に、都心の本屋で倭斗先生と偶然居合わせたって尚斗が言ってたっけ。声をかけられた時、一瞬誰だかわからなかったって言っていたけど。
倭斗先生は、普段の落ち着いた雰囲気からは一変し、左耳にピアス、服装もカジュアルでいつもしている眼鏡はなくコンタクトだった。
たしかにこれじゃ初見はわからないかもなぁ。
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