曇狼月冴の困惑

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「四楓院先生って尚斗のお祖父さんとも知り合いなのか?」 「先生が署の剣道場に通ってるみたいだな。『今時珍しい、芯のある青年だ』って褒めてたけど、あの先生は単なる食わせ者なだけな気がする」  昭彦と尚斗がそんなやり取りをする中でふとスマホで時間を確認すると十六時を回ったところだった。 「そういえば尚斗、駅前の図書館に返本するんでしょ? どうする? 俺たちも帰る?」  俺の問いかけに、昭彦が後ろ頭をかき乱しつつ腕時計を見る。 「図書館って何時までだ? 返却ボックスでいいんだろ?」 「済んだら駅前のファミレスで夕飯は? さすがにそのくらいには腹減ってるかも!」  確認するような台詞に、亮平が「はいはーい」と元気よく手を上げて発言する。 「泰正さんの夕飯は昨日の作り置きがあるから大丈夫だしね」 「ヤレヤレ、騒々しいな、全く」 「よし決まりな! そうと決まりゃ駅行こうぜ!」  溜息混じりの尚斗の背中を押しながら揃ってゲーセンを後にし、駅へ向かう。時間もよく電車も待たずに乗れそうだ。 「月冴」 「ん?」  二人の後について尚斗と並んで歩く。  左手をズボンのポケットに突っ込んだままで少しだけ視線を彷徨わせた後、右手を俺の方に差し出してきた。 「ん」  差し出された手と、尚斗の顔を交互に見る。  そういえば、今日はみんながいるから二人きりの時みたいな触れ合いはなかったかも? その不器用な優しさに心の中で大きな波紋が広がる。  たとえ買い物を間違えたって、映画を観に行ったのに寝ていたって、尚斗は俺のたった一人の、大切な人だ。それを再確認して、そっと自分の左手を重ね合わせた。 「尚斗」  ギュッと握る手に力を込める。 「なに?」 「大好き!」  俺に向けられた視線に自分のそれを交わらせて、真っ直ぐ届くように音にした。  いま俺はどんな顔をしているかな? きっと世界で一番、幸せな顔をしているだろう。  昨日までの困惑を吹き飛ばすかのように笑った俺を見る尚斗の瞳が、照れくさそうにそれでも優しい色に揺れた──。 【曇狼月冴の困惑_Fin】
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