保護したい猫/保護されたい人間

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保護したい猫/保護されたい人間

 その日、仕事を無事に終え夕食も食べ終えた綾人は、趣味の夜散歩へ出かけた。  9月後半になり、今年の猛暑は酷かったがだんだんと秋の夜の涼しさに変わってきたような気がする。  ハーフパンツにバンドTシャツというラフな格好だが、どうせ減るもんでもないしと悠々と散歩する。いつも通る河原に行くと、鈴虫の音と共に不審な物音が聞こえてきた。 「ミー、ミー」 「なんかいるのか? 猫?」  日々、うさぎと戯れている綾人にはその小さな声がしっかりと耳に届いた。どうやら、草むらのほうから聞こえてくる。ゆっくり忍び足で近づくと、草むらの隙間から、白い物体が浮かび上がってきた。 「わあ……ちっちゃ」  手持ちのスマホの光を近づけると、お腹をヘソ天させている白い子猫だということがわかった。生後1ヶ月ほどだろうか? 猫の生態については、少し知識がある程度で専門というわけではない。白い猫はミーミーと鳴きながら、つぶらな瞳で綾人を見上げている。 「天使やん。おまえ」  思わずもれでた声に、返事をするように白い子猫は更に激しく鳴き出す。手足をじたばたとさせながら、ミーミーと鳴く。10分ほど近くで様子を見ていたが、親猫や兄弟猫が近くにいる様子はない。  野良猫で家族とはぐれてしまったのか、もしくはあまり考えたくないが人間が捨てていったのか。綾人は深く考える間もなく、被っていた黒いキャップを外して、その中に子猫を入れた。 「大丈夫。とりあえず、俺ん家でメシ食おうなっ」  ミーミーという声が1度止まったが、今度はさらに子猫が大きく鳴き出した。綾人は違和感を覚える。どうしたというのだろう。これから保護されて、ごはんとあたたかい家を用意するのに。子猫を1度ゆっくりと草むらの上に下ろすと、なんと驚くべきことにてくてくと歩き出したのだ。 「おいっ! おまえ歩けるのか!? 無理すんな!」  スマホの僅かな光を草むらに照らして、綾人は子猫を追った。幸い急スピードではなく、てくてくとしたゆっくりとした歩みのため、見逃すことはない。  一際、子猫が大きく鳴いて綾人のほうを見上げた。子猫がその物体にくっつく。すりすりと頭を擦りつけている。  なんだ? と綾人はその物体の全容を明らかにしようとした。だがーー。  ザッという鈍い物音とともに、その物体が動いたのだ。暗闇の中で、子猫ならともかく自分と同じくらいの大きさの物体が動いて、綾人は心臓が飛び跳ねるような心地がした。 「保護しろ」 「はい?」  その物体は、立ち上がると白い子猫を両手に乗せて綾人を睨むがごとく見おろしてきた。
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