保護猫と保護されたがり人のモーニングルーティーン

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「ホストってさ、結構節約のために皆店の運営してる寮とかに住むんだけど、一人暮らししたくてさー。俺ももう21だし。んで、本カノってゆう、1番お金使って尽くしてくれるお姫の住んでる恵比寿のタワマンに転がり込んで同棲してたんだけど、こないだ揉めてさあ。そんで家追い出されて、路頭に迷った挙句、あのような河原でホームレスをしてたんだよ」  「家出娘なんよー」と、灯織がめそめそし出す。可愛げはない。全くない。 「すっげえけど、わかんねえすごさだな。んで、おもちはどうやって出会ったんだよ」 「おもちわぁ、えっとお。気づいたらそばに居る温もり的な? 朝方仕事終わりにあの河原に来たら寒くてさあ、あれ? なんかお腹だけあったけぇなーって思った日があって、お腹を見たらもうおもちが寝てた。いつからいたかはわからない」  突然のおもちの出現に、綾人は絶句する。  そんな破天荒な流れの中に俺はいるのか……。 「それはいつ頃の話なんだ?」  綾人が聞く。 「そうだねえ。3日前くらいかな? ねー。おもち」  いつのまにかミルクを飲み干したおもちが、よたよたと歩きながら灯織が広げた手の中に入り込みまたうとうとと首を揺らす。明るいところで見えたからわかったのだが、灯織は女性がやるような長めのジェルネイルをしており、爪にシルバーのストーンやら十字架などのパーツを載せており、ゴテゴテとしている。しかし、おもちを傷つけないように、優しく両手に包んでいる。 「という、運命的な出会いをしたおもちと俺を離れ離れになんかしないよね?」  うるっとした瞳で綾人を覗き込む目は、若干の圧を感じる。 「まさか、俺の家でおもち共々灯織も保護しろとでも?」 「そう! さっすがあ。綾人。わかってんじゃん」  「よろぴくね」とウィンクする灯織を横目に、どうしたものかと綾人は額を押さえる。  おもちを保護するぶんには全く問題ないし、むしろ一人暮らしで寂しかったし、子猫を育てたい夢も小さい頃からあったから共に生きていきたい。しかし、家なき子のような状態のホームレスホストもオマケでついてくるなんて、そんなこと誰も想像しない。  ここでおもちの保護を拒んでしまったら、灯織はその辺の知識とか薄そうだし、また元の河原で野宿なんてした頃にはおもちは体調を崩してしまうだろう。おもちがこんなに懐いているのならば……おもちの心的ショックを減らすためにもやはりここは、灯織と共にこの家で保護するしか……うん。それしかない。全てはおもちのためだ。 「わかった。今日からおもちと、お前を保護する」  綾人が伝えると灯織は微かに目を見開いて、 「よろしくお願いしますっ」  と、ぺこりと頭を下げてきた。  成人男性(26)と、保護猫おもち(生後1ヶ月)、保護ホスト灯織(21)との、3人共同生活が始まった。
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