灯織のアイディアには猫愛が溢れている

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「ロシアンブルー。お前、ロシアンブルーに似てるよ」 「あー。お姫からよく言われる」  本当に何回も言われているらしく、呆れられてしまった。ロシアンブルーのような、お嬢様(男だから王子様か?感)。高級な貴族に飼われていそうな猫だ。 ーー俺だけが気づいたと思ったのにな。  綾人の胸の奥がひりつく。なぜ? と疑問になる前に、現実が押し寄せてきた。 「なー」  すりすり、とおもちが綾人の膝に身体をすりつけてきたのだ。珍しい。綾人にすりすりすることは、めったにない。どうしたんだろう。 「おもちー?」 「なー」  おもちは綾人の膝の上に乗り上げると、おしりをあげてしっぽをピンと持ち上げている。喜んでるのか? 撫でてくれと言わんばかりの甘え様である。綾人は、わしゃわしゃとおもちのお腹を撫で回す。  うさぎ派だけど、猫もかわいいな。やっぱ。  そしたら、強い視線を浴びていることに気づく。灯織、怒ってます。無言の圧力と眼力で、綾人のことを睨みつけている。 「俺のおもち〜」  綾人におもちを取られたことがこたえたらしい。むすっと仏頂面で、帰りの車の中でも助手席でずっとスマホを触っていた。トラブルの本人のおもちは、猫リュックの中で休んでいる。宇宙服みたいなフォルムのリュックなので、リュックの上部にアクリルでドーム型のケースが付いているため、リュックの中身が見える。つまり、おもちがよく見えるのだ。おもちももう、すっかり大きくなってつい3ヶ月前まで子猫だったことを忘れてしまうくらいだ。 ーーーーー 「灯織」  部屋に戻ってすぐに、綾人は声をかけた。まだ、ツンとしてる灯織を宥める。猫リュックの中からおもちを取り出し、部屋の中に放った。おもちはてくてくと寝室のほうへ歩いていく。その背中を見送りながら、ぷいと横を向いて拗ねている灯織の隣に腰掛けた。ソファが綾人の重みで少し沈む。   「拗ねてんのか? たまにはいいだろ。俺がおもちを撫でたって。俺も飼い主なんだから」  ぽん、と灯織の肩に手をのせる。唇をきゅっと結んでいた。 「うー。そういうことじゃないもん」 「えー。じゃあどういうことなんだよ。教えて」  勝手に1人でぷんぷん怒っている灯織を見てると、まるで5歳児を相手にしているようである。  俺は思春期の娘の父親か。  と、苦笑いするくらいには2人の距離は縮まっていた。 「俺もお仕事がんばってるから、なでなでしろください」  ちょっと驚いた。こいつ、おもちに嫉妬してんのか。なでなでされたいのか? 俺に?
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