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その日の仕事が終わりに近づいていた。窓の外が真っ暗になっている。代わりに、辺りの繁華街のネオンが光る。
20:00にお店が閉まるため、お客さんの姿はもうない。代わりに、触れ合いスペースの従業員が忙しなく床掃除やアルコール消毒をしていた。生き物を扱う業務のため、安全確保や清潔さは保たねばならない。綾人も自身の持ち場のうさぎのおうちを掃除した。すると、柚音先輩が近くにやってきた。
「あやっち。今日はチンチラのヘルプありがとな。礼と言っちゃなんだが、今日このあと飲みにでも行かないか?」
「まじですか! 行きます! もちろん柚音先輩のおごりですよね?」
「お前なあ……」
呆れながら笑って、柚音先輩は「いいぜー」と言う。
「その前に……」
柚音先輩が背中から何かを取り出した。黄色い壺だ。チンチラが入っている壺だ!
「存分にもふっていいぞ」
「はい〜」
チンチラのキュウちゃんの背中を撫でる。すっげえ、モフっ子。もふもふ。ああ、吸いたい……。
「先輩……吸っていいっすか?」
「仕方ないな……キュウちゃんも営業終わりでお疲れだから1回だけだぞ」
キュウちゃんは触れ合いスペースのアイドルだ。白いチンチラは珍しくて、目を引く。まん丸おめめと、まあるいボディ。マシュマロ女子とはまさにこのキュウちゃんのことだ。キュウちゃんは、人に撫でられるのが好きで壺の中で大人しくしている。綾人は、ふぅと息を吐ききってから、壺の中にいるキュウちゃんの背中に鼻を近づけて吸い込んだ。
「ズズズズ」
綾人の興奮した鼻息にも全く動じずキュウちゃんは壺の中で眠っている。
ああ、かみさま。チンチラがいれば日本は平和です。ありがとう。𝐿𝑜𝓋𝑒 𝒶𝓃𝒹 𝒫𝑒𝒶𝒸𝑒
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