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「あーもう! 柚音先輩が眩しすぎる」
「バカヤロウ。嬉しいじゃねえかコノヤロー」
柚音先輩におでこを小突かれ、反撃にサムギョプサルを全部食べたら、まじでゲンコツされた。痛い。
ーーーーー
マチアプでの失敗談を柚音先輩に話した後で、少しすっきりはしたものの、快晴とまではいかない。
最寄り駅から歩いて徒歩10分にあるアパートに入る。二階建ての鉄骨アパート。築3年。1LDK家賃12万円。まあ、山手線の駅が最寄り駅だとこんなもんだよな。可もなく不可もなくな部屋に入る。オートロックだし、プロパンなのは痛えけど。
リビングにある2人がけのツイード柄のソファに座り込み、そのままスマホを操作する。マッチングアプリに課金して半年近く経つが、何人か会っても、なんか違うなとなり交際に発展しない。
自分はもちろん真剣に出会いを求めてアプリを使用しているのだが、女は無料で使えるため女のほうが遊び目的だったりする。それが1番面倒くさい。
キープとかいうとち狂った考え方もあるらしい。女が数人とのデートをした後に、さて誰と付き合うかを決めるとかなんとか。
男がキープをするパターンもあるらしいが、俺はしたことない。複数人と同時進行でやりとりをするなんて器用なこと俺ができるわけねえ。マルチタスクよりシングルタスク。それが俺の生き方だ。
綾人は自身のマチアプのプロフィール写真を再度眺める。じっくりと。
「柚音先輩にもこの写真は写りが悪くないし、盛れすぎてもないから、好印象って言われてるけどなあ」
マチアプの勝負は何より写真だ。どれだけプロフィール文が立派でも、外見、容姿が大事だ。幸い、何人か会った女からはかっこいい、地下アイドルの誰それに似ているだのともてはやされたが、自覚があまりない。そんな自分を柚音先輩は「無自覚イケメン」と揶揄う。
1年前に別れた彼女とは、もう2年近く付き合っていた。お互い、価値観も合うし、趣味も似てるし、生活リズムも似ている。何もズレる要素なんてなかったのに。彼女は当時、総合商社の事務員をしていて、彼女いわく職場でとてもタイプの人と出会ってしまったのだと言う。
その華やかな経歴を持つ男は、彼女の上司として配属されたらしい。面倒見が良くて、ルックスも良かったらしい。
その華やかな男を忘れるために、彼女は何度も俺に抱かれて忘れようとしたらしいが、むしろその恋は燃え上がってしまい、彼女の浮気を綾人が知り、別れた。
どこからが浮気なんだか。手に触れることも、キスするところも、想像したくなかった。
せっかく柚音先輩とだべって、メシ食っていい気分だったのに、嫌な記憶がループする。
「明日も俺はうさたんのために労働するんだ」
スマホを手放し、枕に頬を押し付ける。
小動物カフェ・ミルキーウェイ「触れ合いスペース」うさぎ部門・店員、菊伏綾人のナイトルーティーン。
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