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『目が覚めた』
そんな簡単な言葉では済まされないことを言われた。だけど、確かにいつの頃からか、お父さんの態度が変わったことは感じていた。
異物を見る目だったのが、気遣う視線に変わり、いつしか愛に向けるものと似た視線に思えるようになった。
それがどこか不気味に思ってもいたけど、どこか、嬉しく思うときもあった。
「じゃあ……お父さんは、愛の言葉を守って、私を娘として大事にしようとしてくれている……そういうことですね」
「それだけじゃ……」
「そうですよね?」
強く、私は確かめた。お父さんは、私の意図を図りかねるように瞬きを繰り返している。
「人が……変われるんだってことはわかっています。お父さんにも、変化があったんだってことも。でも、だけど……今の私には、お父さんの変化は全部は受け止めきれないんです。昔、どう思われていたのかをよく知っているから……」
「……すまなかった」
「だけど、愛がいるなら……受け止められるかもしれない」
「愛が?」
「愛が、お父さんを変えてくれたから。愛がお父さんに、私を愛するように言ってくれたから……だからお父さんは、精一杯、私にも『お父さん』でいようとしてくれている……そう、思えます」
「……そうか」
――ヒトミは、凄いんだよ。なりたいって思うもの、なんにでもなれるよ……なってね
じゃあ、私は『娘』になってもいいのかな? いいよね?……なれるよね?
私とお父さんを繋ぐ愛を、もう一度仰ぎ見た。
そこに映るたくさんの愛は、笑顔のまま、動きを止めていた。笑ったまま、私たちを見守っている。背後に映る、昔の星たちと同じくらい煌めいた笑みで、私とお父さんを包み込んでいた。
「お父さん……お願いをしても、いいですか?」
「なんだ?」
「この部屋に、いつでも入っていいですか?」
この部屋には、セキュリティロックがかけられている。お父さんしか、ロック解除はできない。お父さんのいない時には、この部屋には入れないのだ。
お父さんは、少しだけ迷って、頷いた。
「もう、中のものを壊さないならな」
「子どもじゃないんですから……でもあの時は、ごめんなさい」
「いいよ。好きなときに会いに来なさい。いつでも、ここにいるからな」
そう言って、愛の残したチップを一つ一つ、箱に戻していった。私も、それを手伝った。こんなにもたくさん、愛は思いを残してくれていた。
「あのね、私……スペアだって言われて傷ついた」
「……ああ」
「でも、愛が苦しそうな時、私の体をあげることで治してあげられたらって……そう思った」
「……」
「どっちも、本当の気持ちだった」
「ああ、そうだな」
お父さんの声は、穏やかだった。私の思いを、受け止めてくれたんだと、そう思えた。
私は『娘』になった。『娘のスペア』じゃなくて。
これで、いいんだよね?
答えなんて返ってこない問いを、胸の内で問いかけてみる。答えは、自分の中から湧き出た。
「お父さん、もう一つお願いがあります」
「……なんだ?」
「これ……もう一人分、用意してもらってもいい?」
リスト端末を操作して、登録されていたデータを表示させる。それを覗き込んだお父さんは、目を丸くしていた。
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