chapter6 約束

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 お母さんは、チラチラと窺い見るように私を見る。まばらな視線には、私……ヒトミへの感情がありありと浮かんでいた。慈しみでも、良心の呵責でも、悲しみでも同情でも、どれでもない。ただ、嫌悪感だけが、隠しきれず滲み出ていた。 「なんで、あなたがいるの。愛と同じなのに、どうして愛じゃないの」  お父さんが、お母さんを咎める声を出した。けれど、私がそれを止めた。  今のお母さんはいつもと違うと思ったから。スイッチが切り替わっても、記憶が曖昧なまま。私が必死に愛のフリをしていたことを、知っているお母さんだ。 「……わかってるわよ。全部、私が悪いのよ。今時、仕事を続けながら自然出産にこだわったせいで愛はお腹の中で満足に育ててあげられなかった。対してあなたは、人工子宮で悠々と育って、丈夫な体で引き渡された」  100年前はいざ知らず、今は、妊娠後は受精卵を取り出し、人工子宮で胎児を育成する。病院で受精卵の頃から育成状況を管理することで、先天性疾患や死産、流産のリスクを大幅に軽減することが可能になったのだ。女性の社会進出に伴う妊娠出産リスクとデメリットを考えた結果、その方法は急速に普及したらしい。  一方で、我が子のことを自身で育てたいという女性たちの希望もまた、なくなったわけじゃない。お母さんのように、いわゆる十月十日(とつきとおか)過ごした末に、自然分娩で出産する例も少なからずあるらしい。  だけど当然、医療のプロによる目が届かないことが多い分、リスクがつきまとう。 「どうして……私がお腹を痛めて生んだ子は満足に生きられず、勝手に育ったあなたが生きてるの。そもそもあなたは、愛のために作ったはずなのに……!」  ずきんと、痛みが走った。お父さんに言ったことで、乗り越えたつもりだったけれど、やっぱり苦しい。  だけど今、わかった。  お母さんは愛がいなくなって寂しいんじゃない。苦しいんだ、きっと。その苦しみをどういう形であれ、誰かにぶつけずにいられないんだ。  お母さんの苦しみは、止まらなかった。 「なにが妹よ、なにが二人目の娘よ……! 愛じゃないのに、この子だけいて、どうしろって言うの……!」
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