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「よしなさい。そんなこと、ヒトミには何の関係もないことだろう。健康に育ってくれて、感謝こそすれ……」
「そうよ! だから全部私が悪いんだって言ってるじゃない! あなたは悪くないわよ、何も! だからもう……哀れむのはやめて」
「哀れむ……?」
そうよ、とお母さんは憎々しげに言う。
「あなたにそんな目で見られる度に、胸が締め付けられた……愛と違うあなたを見る度、愛にそっくりなあなたを見る度……自分の犯した過ちが、何よりも大事な娘を死なせたんだって言われているようだった……! いっそ、お前も死ねって言われた方がマシよ!」
悲痛な叫びは、星空に響くようだった。だけど人工の空は、お母さんの声を、言葉を、すべてその真っ暗なスクリーンに吸い込んでいく。お母さんの思いは、どこにも行けずに、ただ彷徨い果てるだけだった。
後には、ただむせび泣く声だけがしとしとと響いている。
愛に、届いただろうか。そんなことを、ふと思った。
そして、私は星空を見上げた。愛の好きな、冬の星々だ。
見ているかな――そんなことを思って、わたしは お母さんに歩み寄った。
「お母さん」
声をかけると、お母さんはびくっと肩を震わせた。私に、罵倒されると思っているんだろうか。それとも、殴られると?
そうされると覚悟している顔を見て、なんとなく、わかった。
お母さんが、本当に望んでいることが。
「……お母さん、私に責められたいの?」
「……え?」
お母さんは、ハッとして、私を振り返った。
「私はね、少しだけ、お母さんを恨んでる」
「……そう」
お母さんはまた、俯いてしまった。自分の罪を理解しているからこそ感じる重圧なんだと、わかる。
「お母さんは、できるだけ愛と私を区別しないように頑張ってくれてたけど……クローンの法が改正されて、私がドナーになれなくなった時、がっかりしてたね。それに親戚の人に言われた……『君のお母さんは可哀想にね。何のためにもう一人作ったのかわからないって嘆いてたよ』って」
「そ、それは……」
否定しないあたり、きっと本当なんだろう。お父さんも、苦い表情で俯いている。
恨み言を言うのなんて、簡単なんだ。お母さんが親戚の人たちに零したように。きっと水の入ったコップをひっくり返すのと同じくらいあっけなく言ってしまった。だけど零れた水は、もう戻せない。
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