エピローグ プロトタイプ

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「花見って、昔は春に桜を見て飲んだり食ったりする会のことだったんだよな? これって、ちょっと違うんかな?」 「たぶん『飲んだり食ったり』は後付けなんじゃない? 最初は桜を愛でるのが目的たった……ってどっかで聞いたような……?」  加地くんも弓槻さんも首を傾げている。でもたぶん、それほど困った様子じゃない。 「二人が十分『愛でてる』から、いいんじゃないかな。桜も、それ以外のお花も」 「そう? じゃ、いいか」 「ていうか、そもそもなんで『実験リスト』に花見が入ってたんだっけ?」 「加地くんと弓槻さんが追加したので、お二人がやりたかったことなのでは?」  ナオヤくんが言うと、二人は目を見合わせて、更に首を深く傾げた。どうやら、記憶にないらしい。 「言ったっけ? そんなこと」 「言ってたよ」  そろっと言ってみたけれど、二人はやっぱり覚えてないらしい。  あの時、かなり盛り上がってあれもこれもそれも、と何でもかんでも詰め込む雰囲気だったから、いわゆるノリで書いたのかもしれない……。 「悪い悪い。そもそも深海とヒトミが始めたリストなのに、俺らが勝手に色々足しちゃってさ」 「そういえばそうだっけ。ねぇ、今更なんだけど、どうしてこのリストを始めようと思ったの? 本当は『青春実験』なんて、違うんじゃない?」  さすが弓槻さん……鋭い。  でも確かに、『青春の実験』なんて、加地くんがやるならともかく、私やナオヤくんが思いつくとは普通は思えないだろう。実際に、違うし。  答えようかどうしようか迷っていると、ナオヤくんが、ぽつりと先に告げた。 「お二人ともご存じのように、僕もヒトミさんも、クローンです」  それを、二人は黙って聞いてくれる。視線が、先を促していた。 「今は違いますが……あの頃は二人とも、自分はオリジナル……つまり『愛』さんと『尚也』にならなければいけないと、思い込んでいました。だから二人で考えていたんです。オリジナルの二人なら、何をするか、何をやりたがるか、どうすれば彼らに近づけるかを」 「そのためのリストだってってか?」  ナオヤくんは、神妙に頷いた。  それを見て、加地くんも弓槻さんも顔を見合わせていた。やっぱり、おかしなことだと思うだろう。  まして、私たち自身のことを認めてくれた二人にとっては。そして、もう一度リストをしげしげと見つめて、言った。 「そっか……じゃあ、お前ら二人、リスト達成してるじゃん」 「え」
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