エピローグ プロトタイプ

3/4
前へ
/110ページ
次へ
 きょとんとする私に、弓槻さんがリストを見せてくれる。 「ほら、ここからここまでが最初にあった項目。ここから下が、私らが追加した項目。最初に書いてた項目って、もう全部終わってるんだよ」  言われてみれば、上に書かれていたものは全部線が引いてある。まだ残っているのは、後から追加したものばかり。終われば次々追加すればいいと話していたから、なんとなくリストは終わらないものだという認識でいた。  けど、明確に最初のものと追加したものでは違う。だって後から足したものは、新しい経験をして、楽しむための項目だから。 「実験の第一段階は、終了ってことでいいんじゃねえ?」 「そういう観点も、ありますね」 「あるある。この際だからさ、リスト分けようよ」  そう言って、弓槻さんは上下のリストの間に線引きして、二つに分けた。それを見たナオヤくんは、なんだか感心していた。 「なるほど。ここから上がプロトタイプ実験、下は青春実験……といったところでしょうか」 「プロトタイプ?」 「何それ?」  またしても、二人にとっては初出の言葉で、目を丸くしていた。 「え、えーとね……」  私は、たどたどしくも説明した。あの日、ナオヤくんと交わした言葉を。  もしかしたら二人は、また気分を害してしまうかもしれない。そう思ったけど、そんなことは、杞憂だった。 「はぁ~なるほどなぁ。オリジナルを完成体と考えて、それに近づこうとしている試作段階のプロトタイプ……か」 「なんか深海くんらしい名付け方だね。ちょっと機械みたいだけど」 「恐縮です」 「ごめん、褒めてはいない……」  弓槻さんがちょっとだけ辛辣に言う間に、加地くんは妙に感心したように、うなり声を上げていた。 「だけどさ……それでいくと、俺たち全員、プロトタイプなんじゃねえ?」 「……え?」  皆が振り返る中、加地くんはものすごく自慢げに語った。 「だってさ、確かプロトタイプって……後で改良するって前提で、作る最初のパターンだろ? 確かにクローンとオリジナルの関係にも当てはまるけどさ、オリジナルがいなくたって、誰だってそうじゃん。10年後とか20年後に『こうなっていたい自分』ていう完成像を想像してて、今それに近づくために色々試行錯誤してる……てことだろ?」 「……あぁ、そっか」  弓槻さんがぽんと手を叩き、私とナオヤくんは目を見合わせている。 「加地くんは、発想が豊かですね」 「いやぁそれほどでも……」 「でも、それいい……! よし、実験続行、決定! 我々人生のプロトタイプによる、青春実験!」 「賛成!」
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加