11人が本棚に入れています
本棚に追加
「いきなり食堂行くの? 混むよ?」
「問題ありません」
昼ご飯は食堂で、と言われて、私はお弁当を手にナオヤくんの隣を歩いた。どこの学校もお昼時の食堂は混雑するものだから、少なくとも転校してすぐはなかなかに茨の道だと思う。
そう言ったのだけど……
「ええ。母もそう言っていましたが、『尚也』はいつも食堂でその日その時食べたいパンやメニューを買っていました。果敢に挑むのは、非常に『尚也』らしい行いです」
「そう、ですか……」
付き合わされる身にもなってほしい。と、思ったのだけど、ナオヤくんは私の分まで色々と覚えていた。
「愛さんとも、よく食堂で会ったと記録されています。その隣には確か、あなたもいましたね」
「……そりゃあ、愛が行くところには、私も着いていかないと」
私は愛の側から離れることはできなかった。両親から愛を見ているようにといつも言われていた。それこそ産まれた時から。
刷り込みのように言われ続けてきて、それを疑問に思ったことなんて一度もなかった。
「そう言っていましたね。あの頃、愛は母親が作った弁当を持参し、あなたは別のものを購入していました」
「愛は……ほら、食事にも気を遣わないといけなかったから。お母さんは私にまで手が回らなかったの」
「今は、手が回ると?」
その言葉に、思わず呼吸を止めてしまった。何か言いたかったけれど、言わずに飲み込み、ただ視線だけナオヤくんに向けた。
ナオヤくんも、少しして、何か気付いたようだった。
「すみません。大変失礼なことを言いました」
「……わかってくれれば、いいよ。気をつけてね」
「はい。ただ……愛に関すること以外にも、またご迷惑をおかけするかもしれません」
「気をつけてって言ったそばから……」
「注意は十分にするつもりですが、その……後で説明します」
もしかして、ナオヤくん自身の生まれに関することで、何かあるんだろうか。
口をつぐんだのは、食堂で大行列ができている光景を見てしまったからだろう。
最初のコメントを投稿しよう!