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全校生徒の半分が入れるほど広い食堂だというのに、昼ご飯時の今は、人で溢れかえっていた。座席は埋まっているし、外で食べるために並んでいる生徒たちも長蛇の列になっている。
「どうする? 挑む?」
「これは……果敢に挑むべきか。それとも今日は戦略的撤退とするか。いや、それならば昼食を入手できない。午後からのカロリーが……」
「お弁当、分けてあげようか?」
「でも、そうしたらあなたのカロリーが……」
「いいよ。ちょっと多めだから、誰かが食べてくれるとありがたいかな」
そう言って、持っていたお弁当の包みを見せた。愛が使っていた小さめのお弁当箱と、それよりもう少し大きなサイズのお弁当箱、二つが入った包みを。
改めてまじまじと見るナオヤくんは、目を丸くしていた。
「確かに一人分には少々多いようですね。でも、完食した実績があるからこその、この量なのでは?」
「……愛とヒトミの二人分、なんだって」
母は、ヒトミを愛と思い込む時がある。そんな時は、ヒトミの存在はなかったことになるのかと言うと、そうじゃない。愛の後ろに影のように控えるヒトミの幻影を見るのだ。
母にとっては、愛とヒトミは二人で一人なのだった。
ヒトミだけでは、ダメなのだ。
そして、ヒトミと愛を混同するようになって初めて、ヒトミもまたお弁当が必要だと思うようになったらしい。
「皮肉でしょ」
「それは、あなたの感じ方次第です」
そう言うと、ナオヤくんは私の手からするりとお弁当箱を奪って、またスタスタ歩き出した。だけど数歩で立ち止まって、くるりと振り返る。
「どこなら、静かに食べられますか?」
私の渇いた笑いを置き去りにして、ナオヤくんは進もうとする。
その歩幅に着いていくので、今は必死だった。
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