chapter2 『実験』の始まり

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 リクエストは静かに話ができる場所とのことだった。真っ昼間の学校で無理を言ってくれる。とりあえず食堂から少し離れた適当な空き教室に入ることにした。  電源の入っていない旧式のデスクが並んでいた中、なんとなく、一番奥のデスクに座った。少しでも、話し声が聞かれないように。  私がいそいそと包みを解いてお弁当箱を並べていると、ナオヤくんは私の正面に立って、いきなり頭を下げた。 「先ほどは、申し訳ありませんでした」 「へ!?」  思わず蓋を取る手が止まってしまった。色々と、タイミングの読めない人だ。 「あの……さっきの発言?」 「はい。あまりにも軽率な発言でした。お詫びします」  深々と頭を下げる姿を見ると、それ以上何も言えない。思わず尚也くんと重ねて見てしまうこともあって、尚也くんならそんなこと言わなかっただろうなって、思ってしまった。  同時に、ものすごく慎重に言葉を選んでいる風のナオヤがぽんとあんなことを口にしてしまったのも、なんとなく驚いた。 「もういいよ。でも、さっき言ってた事情って何? 説明してもらっても、いいの?」  ナオヤはこくんと頷くと、静かに、自分の頭を指さした。 「僕の脳には、マイクロチップが埋め込まれています」 「え、うん……たぶん私も」  たぶん、と言ったのは、記憶にないからだ。  20年ほど前から、脳にマイクロチップを埋めることが広まった。最初は記憶保存のため。それも死後にメモリアルショーをやるとか、それだけしか使い道のないものだった。  でも今では記憶保存だけじゃなく、脳の処理能力補助にも利用されている。文書解読、計算、論理演算、運動能力など、様々な処理能力を補助するために活用されている。  昔は成人後しか手術ができなかったけれど、今では生まれた直後にやるのが主流になっている。私も、愛も、確か埋め込みされていると両親から聞いた。  ナオヤにそれがあったって、何も不思議じゃない。それなのに、何故深刻そうに言うんだろう。 「通常、チップは1つです。それが脳にかかる負荷の限界と言われています。ですが僕には、2つ埋め込まれています」 「え!?」 「片方は、尚也のものです。いわゆる一般常識の知識と、尚也の記憶……両方を1年でラーニングするのは不可能に近かった。そこで尚也の記憶については、僕のチップから、彼の脳から取り出したチップにアクセスするという方法になったのです」
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