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肉と大量の調味料(全部が全部、舌が焼けそうに辛い)によってマグマみたいに真っ赤な餡と、その中においてまだ純白を保つ豆腐を、よーく混ぜて絡めて、レンゲにすくう。とろんとした餡が、したたり落ちる。
レンゲごと真っ赤にそまったそれを、ぱくっと一気に頬張る。思ったほどは、辛くない。なんだか拍子抜けだなと思って、もう一口すくった、その時だった。
「う……か、から……っ!!」
徐々に、辛さが増してくる。一旦引いた波がどどんと押し寄せてきて舌を覆い尽くすようだった。普段、担々麺なんかの辛いものは比較的好きな方なのに、この人口はとても耐えられるものじゃなかった。
衝撃と舌の痺れで、「辛い」と言うことすらできない。
「大丈夫ですか」
ナオヤくんはそっと水のコップを差し出した。一気に飲み干すけれど、辛味からくる痛みはいっこうに引かない。
「あ、すみません。辛味に水は逆効果なんでした」
「……わざとじゃないよね……!?」
「まさか。反応が遅れると言ったじゃないですか」
咄嗟の気遣いにまで影響するとは……いやでも、気を使ってくれたのは確かだから、怒れない。
それに、店員さんに何か伝えている様子が見える。申し訳なさそうな顔を見るに、たぶん、悪気はないのだと思う。
そんな考えを巡らせていると、ストンと、目の前にコップが置かれた。
「こっちをどうぞ。牛乳です。辛さが和らぎますよ」
「え、本当……?」
目の前にあるコップには、真っ白な牛乳がなみなみと注がれていた。今度こそ、と信じて一気に飲んだ。
「……あ、ちょっとマシになった」
「乳製品はカプサイシンを分解する効果がありますから」
「あ、ありがとう……」
お礼を言うと、ナオヤはほんの少し微笑んだ。安心した、と言いたげな顔だ。
なんだか直視できなくて、俯いて牛乳をもう一口飲む。
「でも、牛乳なんてメニューにあった? 辛さを和らげるなら、激辛料理と一緒に飲んだら邪道なんじゃ……」
「彼に頼んだら快く了承してくれました」
「彼?」
ナオヤくんが手で指し示した先には、高校生くらいの若い男性がいた。というか、高校生そのものだった。
同じクラスの男の子だ。
呼ばれたと思ったのか、その男の子はこちらに手を振りながらぴょこっとやって来た。
「よ! 一時間ぶりくらい? ご贔屓にどうも」
「ど、どうも……えっと……加地くんだよね?」
加地芳樹くん……去年も同じクラスだった男の子だ。去年はクラス委員も引き受けていて、活発な人という印象が強い。色んな部活から引っ張りだこらしいけど、家の手伝いがあるからとどこにも所属していないらしい。その分、どこの部にでも助っ人として現れるという噂だ。
「良かった。ちゃんと覚えててくれたか。天宮さん、あんまり人と話さないから、名前も覚えられてないかもって思ってた」
「そ、そんなわけないよ。前はちょっと事情があって……それより、このお店が加地くんのお家?」
「そ! うちの看板メニュー頼んでくれてありがとな。でも、辛すぎたら無理しなくていいから」
爽やかな笑顔につい甘えてしまって、そっと、レンゲを置いた。完食はするつもりだけど、ちょっと休憩。これは、長期戦で臨まないと倒せないと判断した。
「なんか甘いもんと交互に食べたら? サービスするわ」
「い、いいよ。頼んどいて食べられないのなんて、こっちが失礼なんだから」
「いやまぁ、残されるのは悲しいけど、俺らだって病人出したいわけじゃないし。深海だっけ? お前もそう思うだろ?」
そう言って、加地くんはナオヤくんの方を向いた。すると、何故だかぎょっとしていた。
私も、ナオヤくんを見て驚いた。私が置いたレンゲをとって、激辛料理をすくいとろうとしていた。
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