chapter2 『実験』の始まり

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「ち、ちょっと待って。食べられないんじゃなかったの?」 「和らげれば大丈夫かと……それに、あなたにばかり負担をかけては申し訳ない」 「私は自分から言い出したんだってば」 「あのリストは、二人で埋めていくと話し合ったので」 「リストって?」  加地くんが尋ねるので、ナオヤくんはあの『実験リスト』を開いて見せた。上から下までじーっと見ると、加地くんは瞬きを繰り返していた。 「何だこれ。こんなの実験になるのか?」 「僕にとっては、十分試す価値があります」 「えー……俺だったらこれ、一日あったら全部できそう」 「全部できたのなら、新しい項目を追加すればいいんです。実験はいくつも繰り返して、検証していくものですから。検証の材料はいくらあったって、いいんです」  加地くんは今度こそ、ぽかんとしていた。私も同じ気分だ。  その強固な意志は、この無表情な顔のいったいどこから湧いてくるんだろう。 「はぁ……まぁよくわかんねえけど、頑張れな。ところで実験て何のための実験なんだ?」 しまった、と思った。 『私たちがよりオリジナルに近づくための実験』だなんて、言えない。私はともかく、ナオヤくんはクローンとして登録されていない上に、オリジナルとしてここにいるんだから。  実験のことを話したら、違法な存在だってことまで知られてしまうかもしれない。  案の定、ナオヤくんは固まっている。うまい言い訳を考えているのだろうけど、深海くんならどう切り抜けたのかといった記憶を検索して、見つからないんだろう。  彼曰くの『脳の処理』が追いついていないんだ。  私が、何か言わないと……! 「せ、青春の実験だよ」 「え?」 「『青春の実験』? 何それ?」  虚を突かれた顔をしているナオヤくんに、私は頷いて伝えた。ここは任せろ、と。 「えーとね……そう。高校を卒業したら大学でしょ。専門的なことを勉強するのに、私たち、まだどんなことをやりたいとか興味があるとか、わからなくて……だから、今のうちに色々試そうって話になったの」 「つまり『自分探し』とか『個性の確立』をやりたいんだな。いいじゃん、それ。応援する」 「ありがとう!」  加地くんは豪快に笑って、手を差し出した。それが握手を求めているんだと気付くのに、少し時間がかかった。  手を握り返すと、逞しい笑みが降ってくるようだった。
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