chapter2 『実験』の始まり

14/20
前へ
/110ページ
次へ
「す、ストップ! ナオヤくん、それ以上は……!」 「……あ」  私が止めると、ナオヤくんははっとしてレンゲを置いた。どうも美味しさのあまり無意識で食べていたようだ。とっても危険だ……。  止まってくれて良かった。 「危ないところでした。さすがにこれ以上は、健康に支障をきたします」 「うん、うん。あとは私が完食するから」  そう言って、そろっとレンゲとお皿をナオヤくんから取り上げた。そして入れ替わるように、ナオヤくんの目の前に牛乳のコップが置かれた。加地くんが用意してくれたみたいだ。 「これ飲んどけ。ちょっとはマシになるんじゃないか?」 「ありがとうございます。でも、あの刺激をなかったことにするのは、忍びないですね」 「いいから飲め。命のために」 「……はい」  その言葉が大袈裟でもなさそうな辛さだから余計に、大人しく飲んでくれてホッとした。それは加地くんも同じだったようで、ため息を漏らした私と目が合った。そして、苦笑いを浮かべながら言うのだった。 「大変だな」  私は曖昧に笑い返すしかできなかったけど、ナオヤくんは何故か大きく頷いていた。 「確かに大変ですね。挑戦するにも、毎回、限度を考えなければ」 「ああ、うん……そうだね」 「ともあれ」  そう言って、ナオヤくんはまた例の『実験リスト』を端末から呼び出していた。そして私にも見えるように広げると、指で画面に触れた。  ナオヤくんの指を感知して、その動きに合わせて色が塗られていく。  そして『激辛料理を食べる』と『寄り道をする』の項目が、マーカーのように赤く塗りつぶされたのだった。 「この二つは、実験成功ですね」  何を以て成功としているのか、よくわからなかった。けれど、無表情な中にも満足そうに声を弾ませる様子を見ていたら、こだわる必要はないかと思えた。  わかりにくいけれど、今、ナオヤくんは楽しいのでは? そう思ったら、なんだか私も、胸の奥がぽかぽかして、ふわりと軽やかな気分になった。 「よし! じゃあ激辛、攻略するぞ!」  この気分のまま、実験を本当に成功に導こうと、私は渾身の力で挑んだ。  結果は……健闘虚しく、惨敗。  加地くんたちお店の人に謝って、降参したのだった。  この調子だと、これからも実験は本当に大変そうだ。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加