chapter1 再会、もしくは出会い

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 あまりにも淡泊な反応に、なんだか不安になった。 「あのぅ……深海くんだよね?」  尋ねたけれど、何故か答えはなかった。深海くんは、すんと黙り込んだまま、ピクリとも動かない動き方を忘れてしまったかのように。  もう一回声を掛けようとした、その時だった。 「照合できました。お久しぶりです。天宮ヒトミさん」 「……へ?」  恭しく右手を差し出すその人が、本当に私の知っている『深海尚也』と同一人物なのか、怪しく思えてきた。  そろりと右手をさきっちょだけ握り返すと、深海くんはあっさりと手を引っ込めた。 「あの……どうしたの? 深海くん」 「どうした、とは?」 「なんか、その……」  尋ねようと思ったけれど、いざとなると気が引けた。本人を前にして言いづらい。まるで機械みたいだ、なんて……。 「『機械みたい』ですか」  心を読まれた!……という顔をしてしまった。  深海くんはそのことに怒るでもなく、表情を変えずに続けた。 「お気になさらず。事実なので。ただ、事情があるということはお察しください」 「あ、はい……」  ぺこっと深海くんが頭をさげるので、私もそれにぺこっと返す。  顔を上げると、ようやくまた、あの視線とまっすぐ向き合うことになった。 「深海尚也のことを、覚えていてくれたんですね。ありがとうございます」 「それは、まぁ……」  他人事みたいな言い方に、違和感を覚えた。だけど肝心の本人の方は、それを違和感とは思っていないらしい。 「母が喜びます」 「……母? 深海くん本人じゃなくて?」 「はい」 「な、なんで?」  さっき察して欲しいと言われたばかりなのに。思わず尋ねてしまった。  すると深海くんは、またスイッチが切れたようにピタッと動かなくなってしまった。だけど、視線だけが揺れ動いて、やがて私を捉えたのがわかった。 「……あなたは、天宮ヒトミさん、でしたね?」 「はい、そうですけど」 「天宮愛さんの『妹』の『天宮ヒトミ』さんですね?」 「そうです。さっきから、何?」 「いえ、あなたが『天宮ヒトミ』さんの方なら、話しても多少理解が得られるかもしれません。だから、お話しします」  その言い方に、ほんの少しひっかかりを覚えたけれど、すぐに忘れた。それから続けざまに言われた言葉が、あまりにも衝撃的すぎて―― 「僕は『深海尚也』の体細胞から作られたクローンです。管理番号の下三桁がちょうど708だったので、僕のことは『ナオヤ』と呼んでください」 「…………は?」 「あなたと同じ立場の者ということです。天宮愛さんのクローンである『天宮ヒトミ』さん」  そう言われて始めて、彼が浮かべていた無機質な笑みが、そら恐ろしいものに見えてきた。
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