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あまりにも淡泊な反応に、なんだか不安になった。
「あのぅ……深海くんだよね?」
尋ねたけれど、何故か答えはなかった。深海くんは、すんと黙り込んだまま、ピクリとも動かない動き方を忘れてしまったかのように。
もう一回声を掛けようとした、その時だった。
「照合できました。お久しぶりです。天宮ヒトミさん」
「……へ?」
恭しく右手を差し出すその人が、本当に私の知っている『深海尚也』と同一人物なのか、怪しく思えてきた。
そろりと右手をさきっちょだけ握り返すと、深海くんはあっさりと手を引っ込めた。
「あの……どうしたの? 深海くん」
「どうした、とは?」
「なんか、その……」
尋ねようと思ったけれど、いざとなると気が引けた。本人を前にして言いづらい。まるで機械みたいだ、なんて……。
「『機械みたい』ですか」
心を読まれた!……という顔をしてしまった。
深海くんはそのことに怒るでもなく、表情を変えずに続けた。
「お気になさらず。事実なので。ただ、事情があるということはお察しください」
「あ、はい……」
ぺこっと深海くんが頭をさげるので、私もそれにぺこっと返す。
顔を上げると、ようやくまた、あの視線とまっすぐ向き合うことになった。
「深海尚也のことを、覚えていてくれたんですね。ありがとうございます」
「それは、まぁ……」
他人事みたいな言い方に、違和感を覚えた。だけど肝心の本人の方は、それを違和感とは思っていないらしい。
「母が喜びます」
「……母? 深海くん本人じゃなくて?」
「はい」
「な、なんで?」
さっき察して欲しいと言われたばかりなのに。思わず尋ねてしまった。
すると深海くんは、またスイッチが切れたようにピタッと動かなくなってしまった。だけど、視線だけが揺れ動いて、やがて私を捉えたのがわかった。
「……あなたは、天宮ヒトミさん、でしたね?」
「はい、そうですけど」
「天宮愛さんの『妹』の『天宮ヒトミ』さんですね?」
「そうです。さっきから、何?」
「いえ、あなたが『天宮ヒトミ』さんの方なら、話しても多少理解が得られるかもしれません。だから、お話しします」
その言い方に、ほんの少しひっかかりを覚えたけれど、すぐに忘れた。それから続けざまに言われた言葉が、あまりにも衝撃的すぎて――
「僕は『深海尚也』の体細胞から作られたクローンです。管理番号の下三桁がちょうど708だったので、僕のことは『ナオヤ』と呼んでください」
「…………は?」
「あなたと同じ立場の者ということです。天宮愛さんのクローンである『天宮ヒトミ』さん」
そう言われて始めて、彼が浮かべていた無機質な笑みが、そら恐ろしいものに見えてきた。
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