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22世紀初頭。人口激減の危機に瀕した人類は、地球に現存する生命を守るため、様々な種子やDNAを保管しておく施設を各所に設置した。中でも月に設置したものが最も大規模であり、地球上の半数以上の生命の保管庫となり得た。
『NOAH』と呼ばれたそこには、希少種の種子や遺伝子のみならず、希望した人間の体細胞サンプルまでも寄せられるようになる。事故や病気で四肢切断、もしくは臓器移植等が必要になった際の再生手術に利用するためだ。
現在は研究機関も併設され、『生命の牧場』とまで呼ばれるようになる。
その所以は、『NOAH』が、クローン事業を打ち立てたからだった。
『クローン』とは同じ遺伝情報を持つ生物集団をそう呼ぶ。生物個体のコピーと認識されていることが多い。正確には違うのだけれど。人道的、生物学的観点から、法律上はながらく生成を認められてこなかった。
だけどクローン技術の進化と人口の減少をくい止める目的を鑑みて、各国政府はそれまでのクローン技術に関する法を一斉に改定し、ヒトのクローン生成を許可した。
現在は子どもが1人以下の家庭においては、2人までクローンを生成し、実子として養育することが認められている。
******
「あなたも、そんな実子登録されたクローンでしたね」
「まぁ……はい」
「つまり、僕とあなたは同志ということになります」
曖昧な返事しか、返せなかった。いきなり同志だって言われても、何一つ共感できない。
「……すみません。意味の通じにくいことを言ってしまいました。詳細をお話ししても?」
聞いてもいいんだろうか。そう思ったけど、ナオヤは話すつもりらしい。私がおずおず頷き返すと、ナオヤは「ありがとう」と言って、またお辞儀。
「まず、あなたは『深海尚也』をよくご存じかと思いますが、彼は1年ほど前に死去しました」
「……え?」
「交通事故です。父と共に、即死だったと」
まるで機械による読み上げのようだった。そこには感情がこもっていなくて、ただただ、事実を述べただけ。ニュースならばそれでもいいけれど、今、彼が読み上げたのは、自分の本体と父親の死だ。
いくらなんでも、こんなにも無感情でいられるものなんだろうか。そう、思っていたその時、ほんの少しだけ、声音が変わった。
「母は……」
ようやく、少しだけ沈んだ声音が聞こえた。
「母は、二人の死に絶望したそうです。手元に残ったのは夫と息子が遺した莫大な遺産と保険金のみ」
「……うん」
「そこで、母はとある企業にクローン生成の依頼をしました。幸い、息子の尚也は産まれた際に遺伝子サンプルを摂取・保管していたのです」
「ええと……深海くん……」
「よろしければ、僕のことは『ナオヤ』と」
「な、ナオヤくん……それで、その保管されていたサンプルから、あなたが?」
ナオヤくんは静かに頷いた。
また、機械のような表情に戻っている。自分が生まれたことにすら、興味がないように。
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