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「表向き、尚也は死亡していません。一年以上入院し、静養のためそれまで住んでいた土地を離れ、ここに越してきたということになっています」
「うそ、でしょ……」
知り合いの死、そのクローン、更にその違法な秘密……立て続けに聞いてはいけないことを聞いてしまった。私の耳は、これ以上の情報をシャットアウトしたいと叫んでいる。だけど、ナオヤくんはそれを許してくれない。
まだ、何か言おうとしている。
「この公園には、尚也の記憶との照合のために来ました。ラーニングでは尚也の脳内チップに残っていた生前の記憶、それらと各機関に残っていた公的記録とを合わせた尚也のデータをインプットしましたが、やはり実際にこの目で見ると、データ上の情報との融合率が上がります。ここには昔、母と父と一緒に来たようでした」
「そう、なんだ……」
かろうじてとらえた言葉でなんとか情報を整理してみる。
つまり……私の知っていた深海尚也くんは事故死して、その代わりになるようにクローンのナオヤくんが生み出された。ナオヤくんは急速成長させられて、1年の間に17歳の尚也を再現した形でここにいる。そして、その再現度を上げるために、少しでも深海くんの思い出を辿っていたところだった……ということらしい。
「なんていうか、その……」
「はい」
「努力家……だね」
それ以外の言葉が、咄嗟に思いつかなかった。変なことを言ってしまった自覚はある。波の音が幾度も流れる間に、妙な沈黙が流れていく。
そして……遂に、ナオヤくんは答えた。
「ありがとうございます」
ぺこっとお辞儀をするナオヤくんに、私もどうしてかお辞儀を返してしまった。すると「では……」とナオヤくんが続けた。
「あなたの話も、お聞きしていいですか?」
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