chapter4 つくりものの私たち

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「僕は、死んでしまった『深海尚也』の代替として生成されたんです。尚也としてここに存在するために、様々な……本当に様々な処理を施された。既に技術が確立されているものも、まだ実験段階のものも、何でも施されました。それらはすべて、母の元に完全複製した尚也を届けるためです。その過程で、失敗が起こらなかったと思いますか?」  私は、恐る恐る首を横に振った。何が言いたいのか、理解したくなかった。でも、ナオヤくんは続けた。 「預けてあった体細胞サンプルは複数ありましたが、すべてクローン生成に利用された。だけど目的は体を作るだけじゃない。一年の間に成長促進させ、尚也の記憶を埋め込まないといけない……負荷がかかりすぎて脳が壊死(えし)した個体がいました。過度な成長促進によって数日で老化した個体もいました。薬物投与によって精神に異常を来した個体も……かろうじて16歳頃の尚也を再現し、記憶を固定できたのは、僕一人でした。百体以上いて、たった一人だけです。わかりますか? 僕は……『尚也』になる、ただそれだけのために、たくさんの『ナオヤ』を犠牲にして、ここに存在しているんです」  尚也くんの両手が、知らず知らず、強く握りしめられている。その拳が、持ち上げられて、そしてデスクに強く叩きつけられた。  大きな音と共に、彼の叫びが響く。 「僕は、『尚也』以外になるわけにいかないんです。『天宮ヒトミ』を目指していいあなたとは、まったく違う!」  尚也くんは、立ち上がって、歩き去ろうとした。私のことなど、振り返りもせずに。ただ、一度だけ立ち止まった。 「怒鳴って、すみません。でも……これが、僕の……本……」  そこで、ナオヤくんの声が途切れた。同時に、彼の姿も消えた。力の抜けたように、床に倒れ込む後ろ姿だけが、見えた。  教室の外から、音を聞きつけた加地くんと弓槻さんが走ってくる。  青ざめて、荒い呼吸を繰り返し、苦悶の表情を浮かべるナオヤくんに、私はいったい何をしてあげただろうか。  この時のことは、ほとんど、記憶に残っていない――
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