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病院から駅までの間は、大きな道路が通っていて、賑やかだった。19時くらいならお店は閉まっていないし、人も車も行き交っている。
そんな音をやり過ごしながら、私たちはただ、足音だけを響かせて、歩いていた。
何を話していいのか、三人共が迷っていた。
いや、たぶん……遠慮していた。私に対して、加地くんと弓槻さんは、何かを口にすることを憚っているように見える。気のせいならいいのだけど。
だけど、無言でいると、色々と考えてしまう。
今朝からナオヤくんと加地くん、弓槻さんの三人にかかってきたコールは誰からのものだったのか。何を言われたのか。ナオヤくんは、何を思ってあんなことを言ったんだろうか。そしてあの時、どうして加地くんと弓槻さんは、教室の外にいたんだろう。
ナオヤくんが倒れてすぐに対処できたのはありがたかったけど、あの場所にいたということは、私たちの会話を聞いていたということ。二人は用事があると言って帰ったはずなのに。
そしてもう一つ、私たちの話を聞いたのなら、どう思ったんだろう。
聞くのは怖い。けれど聞かずに明日、普段通りに接する自信もない。だから、私は決めた。
「加地くん、弓槻さん……聞きたいことが、あるんだけど」
私がそう言うと、二人とも、ぴたりと足を止めた。振り返った二人の顔は、なんだか悲しそうであり、不安そうであり、同時に何かしらの覚悟が垣間見えた。
ああ、今、聞くしかないんだな。そう思った。
「昼間、ナオヤくんにも二人にもコールがあったよね? 誰からだったのか、聞いてもいい?」
ナオヤくんは、コールの主が私のお父さんだと、暗に認めていた。だから私も、知る覚悟はできてるつもりだ。
加地くんは、それでもまだ言いづらそうに視線を逸らせる。
答えたのは、弓槻さんだった。
「……深海くんと同じ。ヒトミちゃんの、お父さんだよ。加地やんにかけてきたのも、そう」
「おい!」
自分のことまで話した弓槻さんに抗議めいた声を出したけど、加地くんはすぐに、諦めたように頷いた。
「……何を言われたのか、聞いてもいい?」
本当なら、他人のコール内容なんて聞くものじゃない。だけど、今回は事情が違う。
どうしてナオヤくんがあんなことを言い出したのか……その理由が、隠されていると思うから。
「悪いことじゃ、ないんだよ。本当に」
「俺も、そう思う」
弓槻さんがそう言う。つられて加地くんも、頷きながら言った。でも、それだと何かおかしい。
「……たぶん、ナオヤくんも同じだよね。でも朝コールを受けてから、ナオヤくんは何か悩んでた。最後には、あんなこと言ってた……悪いことじゃなくても、三人を悩ませるような内容?」
弓槻さんと加地くんが顔を見合わせて、迷っている。
「できれば、教えてほしい。悩ませるようなことだったの?」
我知らず、詰め寄っていた。できれば、なんて言ったけど、教えて欲しい。
私に詰め寄られて、弓槻さんは観念したように肩を落とした。そして、深呼吸してから、ぽつりと呟いたのだった。
「ヒトミちゃんがクローンだって、はっきり教えてくれたんだよ」
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