11人が本棚に入れています
本棚に追加
「私の話なんて別に……」
「何故先ほど、わざわざ自己紹介を動画として撮影していたのですか。それも、わざわざ自身の紹介動画を撮った後に、あなたの『姉』である天宮愛さんの分まで撮っていたのでしょう。不可解なことが重なりすぎています」
どうも、逃がしてくれそうにない……。
私は、ため息を一つついて、諦めた。
「自己紹介動画を撮ったのは、高校の春休みの課題だから。あとは、なんというか……覚悟を決めるため?」
尚也は目を瞬かさせている。聞き返されると面倒だから、一気に話すことにする。
「私は……私もクローンで、実子登録済み。愛が生まれて一年後に心臓疾患が見つかって、慌てて生成されたの。それ以降、愛は体に負担を掛けないように静かに穏やかに、私は健康に逞しく、教育されてきた」
ナオヤの視線がほんの少し動いた。何かに、気付いたのかも知れない。
「私は『妹』として登録されたけど、お母さんのお腹の中で育ってない。人工育成器で愛の出産時まで育てられて、親に引き渡された。愛より健康になるように。それって愛の分まで生きろってことなのかと思ってた。でも違った。愛の余命が短いって知ったお母さんは、私にドナーになれって言った……私は、愛の体の『スペア』だったみたい」
ナオヤは、少しだけ考え込んで、口を開いた。
「ですが、実子登録されたクローンからの臓器等の移植行為は禁止されているはずです。あなたの言った『スペア』扱いでのクローン生成を防ぐように、と」
「そう法律で決まったのは、何年か前でしょ。私が実子登録された時には、まだその法律はなかったの。そして、愛は死んだ。大人になるまで生きられないって言われていた通りに、若くて可愛いまま死んじゃった……私が、代わってあげられなくなっちゃったから、死んじゃった」
言ってしまった。こんなことを言っても何にもならないのに。言ってしまった……。
ため息をつく私の顔を、ナオヤは不思議そうに覗き込んだ。
「それで……どうして、さっきのような動画を?」
「それ……聞く?」
思わず、口を突いて言ってしまった……。それ以上、話を続けないだろうと思っていたのに。思っていた以上に好奇心旺盛なのか、空気を読まないのか、デリカシーがないのか、あるいは全部か。
いや、と思い直す。それはあくまで自分の希望的観測だ。彼にそれを押しつけるのは違う。話したくないのが、本音だけど。
「ええと……だから、つまり……愛は両親が思うような治療を受けられないまま死んじゃったのね」
「はい」
「両親は色々手を尽くしたんだけど、そうなっちゃって、落ち込んで……特にお母さんが」
「はい」
「それで、最近よく私を『愛』って呼ぶの。呼び間違いじゃなくて、本当に愛だって思っている時が、だんだん増えてね」
「だから『愛』の練習を?」
こくん、と頷くと、ナオヤは首を傾げた。今の話のどこに疑問が湧くのか。自分では割と自然な流れだったと思うのだけど……。
「それは……あなたが『愛』の真似をするよりも前に、お母さんが医師の診察を受ける方がいいのでは?」
「カウンセリングなら受けてるけど、精神的に安定できることは多い方がいいでしょ。だから……」
「なるほど」
最初のコメントを投稿しよう!