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「俺の場合は昔の知り合いとかじゃ、全然ないけど……」
そう言って、加地くんもまたなんだか苦笑いに似た表情を浮かべていた。
「でも、いつも気に掛けてくれるよね。ありがたいけど……どうして?」
「たぶんヒトミ以外でも、同じようにしたとは思う。でも偶然、ヒトミのパーソナルデータを覗いちゃったことがあってさ。それからなんとなく、ヒトミが気になってた」
加地くんは、恋愛とかそういうんじゃないけど、と笑って付け足していた。
「職員室に用事があって、そこで生徒のデータを見てる先生がいてさ……偶然見えたのが『天宮ヒトミ』のデータで、他の生徒には書かれてない番号が書かれてた。クローンの管理番号が、さ」
「……クローンて、気持ち悪いって、思った?」
「まさか。その逆。俺、クローンだってわかった相手は、なんとか力になりたいって思って……でもなんかヒトミって話しかけてくるなって雰囲気で……気付いたら2年になっちゃってて……」
あの面倒見が良くて溌剌とした加地くんに、そんなことを思わせていたとは。私は、自分で思っていたよりずっと根暗だったらしい。さすがに反省しよう。
でも、それにしたって疑問は残る。
「あの……クローンの力になりたいって、どうして?」
そう尋ねると、加地くんはおもむろにシャツのボタンを外して、胸もとを開いて見せた。心臓の近く……胸の真ん中に大きな傷跡があった。ケガにしては真っ直ぐで、規則正しい縫い目のついた傷跡……たぶん手術痕だ。
「俺、小さい時に移植手術受けたんだ。クローン生成も人工心臓も、金がないからできなくて、ドナーの順番待ちでようやくって感じだったけど」
私たちが生まれる頃には、クローン技術が確立されていた。大昔に懸念されていたような遺伝子異常や先天性疾患はほぼなくなって、安心してクローンを生み出せるようになっていた。
移植手術は適合率のより高い人物から移植される方が安全なのは、いつの世も同じ。当然、クローンからの移植が一番安全と謳われるようになっていた。
だけどクローン生成は、当然、相当な費用がかかる。深海くんの両親や愛の両親みたいに経済的にかなり余裕のある人間の間でしか広まっていない。
そうじゃない人間は、当然、安全度の落ちる方法をとる。それが、かつては最先端の方法だったドナーからの移植だ。今となっては、『偶然適合率が高いと診断された赤の他人』からの移植なので、安全性を危ぶむ人もいるらしい。
だから、今の社会ではやむにやまれずの選択肢であることが多いらしいけれど……。
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