chapter5 あなたたちとは違う

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 ナオヤくんは、その後ずっと学校を休んでいた。家族以外の面会は許可されていなくて、先生も生徒たちには詳しいことを話さなかった。たぶん、大勢でお見舞いに詰めかけるのを避けるためだと思う。  手術の間ずっと病院にいた私たちは、おばさんと連絡先を交換している。面会の許可が下りたら、すぐに知らせてくれることになっていたのだ。  もう、二週間近くになる。いつ来るか、いつ来るかと、毎日誰かのもとにコールがかかるのを待っていた。  今日も、朝からずっと鳴らないコールを待ち続けて、昼休みだっていうのに、私たち三人は既に憔悴していた。 「まだかな」……そんな一言を発することすら、憚られるようになっていた。  いつからか、三人で集まって話しても、お弁当を食べても、何も話さなくなっていた。誰かが口を開けば、皆が不安を吐露してしまいそうだったから。張り詰めた空気を少しでも緩和させるためにどうにか話すことと言えば、日常の話くらい。  皆、胸の奥に思いを抱えながら、当たり障りのない話ばかりを繰り返していた。 「そういえば、昨日店に来たお客がさー」 「隣のクラスの人なんだけどさ、めちゃくちゃ綺麗な絵描くんだよ」 「……そうなんだ」  実験をしなくなった私には、何もない。お店の手伝いも、部活も。だから二人の話を黙って聞く以外できなかった。  話を聞いていたら、やっぱり、もう一人の声が聞きたくなってくる。抑揚のない、だけど好奇心が潜んでいて、冷静で鋭い指摘をする、あの声が。  その思いが、ため息に変わって漏れ出た、その時――私の腕で、コールが鳴った。着信表示には、おばさん……ナオヤくんのお母さんの名前が見える。  加地くんと弓槻さんと私、三人で目を見交わして、教室を出た。人の少ない廊下の端に移動しても、なおコールは鳴り続けていた。私は、そっと着信応答のボタンを押した。 「はい、天宮です」 「深海です」  すかさず、おばさんが応えた。応答が遅くなったことについては、特に何も言わない。その代わり、すぐに本題に入った。 「今日、ナオヤが一般病室に移ったわ。家族以外の面会も可能だそうよ。ただし騒ぐのはダメ。時間は17時まで。病室は……あとでメールを送るわ。今日、お見舞いに来る?」  必要事項を淡々と述べるだけの事務的な話し方だ。咄嗟に聞き取るだけで精一杯で、慌てて三人で顔を見合わせる。
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