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「N1001……北エリアの10階……」
おばさんから教えて貰った病室への行き方を何度も見返しながら、不慣れな病院の廊下を歩く。
病院エントランスには人がたくさんいたのだけど、このエリアには人影があまりない。一般病室といっても、どうも特別扱いの個室が並ぶエリアらしい。
普通なら受付で名前を聞かれるだけなのに、この病室だと言ったら、名前を告げると、他にも何やら色々と入念に聞かれ、特別な色の入室カードを渡された。
VIP待遇ということらしい。なんだかそれだけで、お見舞いの花束を持つ手が震える……。その時、リスト端末が着信を知らせた。ショートメッセージだ。文面は……
『まだ着きませんか? 迷いましたか?』
なんと、お見舞い相手から直接心配されてしまった。
そうだった。受付をすると、お見舞い相手に訪問客が来たと通知されるんだった。私があれこれ迷っているずっと前に、ナオヤくんは、私が来たことを知らされていたのだ。
もう、迷っている時間はないらしい。
意を決して、ドアロックに訪問客用の入室カードを読み込ませる。ドアは驚くほどスムーズに開いた。
その向こうには、訪問客用のテーブルセットに、簡易の応接セット。そして寝心地の良さそうなベッドが窓辺に沿うように置かれ、そこに、よく知った顔の男の子が座っていた。
さっきまで寝ていたんだろう格好で起き上がっている。書籍端末を眺めていたけれど、私が入室すると、視線だけをこっちに向けて、小さくお辞儀をした。
「ようこそ」
そう呟いたナオヤくんは、二週間前と変わらないように見えた。だけど一見すると、というだけの話で、よく見ると顔色は良くなかった。以前よりずっと青白くて、頬もこけている。
私に向けて発した声にも、力が籠もっていない。
そんな様子を誤魔化すかのように、ナオヤくんは顔を逸らせて、手元の端末に視線を落とした。
「すみません。こんな調子なのでお構いもできません」
「そ、そんなのいいよ……あの、これ。お見舞い……です」
なんとか、花束を見せた。ナオヤくんはちらっとだけこちらを見て、すぐに目を逸らしてしまった。
「ありがとうございます。そっちに置いておいてもらえますか。後で花瓶に入れてもらいます」
「……うん」
おずおずと応接テーブルに花束を置かせてもらうと、二人の間には沈黙が下りた。何を話せばいいか、わからない。
だけどそれ以前に、こんなに、にべもない話し方をする人だっただろうか。
ああ、でも仕方ない。来たのが私だから、かもしれない。加地くんや弓槻さんだったら、もっと違う態度だったかも……そこまで思って、考えるのをやめた。
その加地くんと弓槻さんが、私に色々と託してくれたんだ。私が、まず言わなきゃいけないことが、あるんだ。
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