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私は大きく踏み出して、ベッドの正面に回った。ナオヤくんが下を向いていても、かろうじて視界に入るだろう場所だ。そして、深く、頭を下げた。
「ごめんなさい」
「……え?」
床に視線を向ける私の耳に、ナオヤくんの戸惑う声が聞こえた。
「倒れる前、興奮させて……私に怒ってたよね。怒ってなくても、あんな……大事なことを言わせて、ごめんなさい」
「あれは……僕が勝手に……」
「それ以外にも」
一度、顔を上げる。思った通り、ナオヤくんの戸惑った顔が見えた。あの時、見放されていたんじゃないかもしれない。
その嬉しさを噛みしめつつ、もう一度、頭を下げた。
「あの日、私のお父さんから何か言われたんだよね。父が勝手なことをして、本当にごめんなさい」
「……いえ、お父さんのご心配はもっともです」
なにがもっともなもんか。そう思ったけれど、ぐっと堪えた。
そして、あの日以来、胸の奥に湧き起こっていた疑問を、口にした。
「ナオヤくんは、どうしてあんなことを言ったの?」
「どうしてって……」
「加地くんも弓槻さんも、同じことを言われたらしいよ。でも二人は、私とこれからも友達でいる道を選んでくれた。お父さんが、そう頼んでいるように聞こえたって、言ってた。じゃあ、ナオヤくんはどうして、あんなことを……?」
納得はしていないけれど、お父さんが心配した末に三人に連絡を取ったのは、間違いないと思う。私がクローンだと知っても変わらず一緒にいてくれる人間かどうか。手前勝手だけれど、三人を試したんだろう。
そのことは腹立たしい。だけど今気になっているのは、加地くんと弓槻さんの二人と、ナオヤくんがとった行動が真逆だったこと。
私は確かめたかった。彼の胸の内が。
「答えたくなかったら、無視してくれていい。体に負担がかかるようなら、すぐに帰るから……聞かせて」
私がそう問うと、視線を彷徨わせながら、おずおずとこちらを向いてくれた。
窓から差し込む西日が、青白い頬を赤く照らす。その赤い顔が、綺麗だと、ふと思った。
ナオヤくんは何度か目を逸らしながらも、最後はため息まじりに言った。
「こちらも、一つ聞かせて頂ければ」
「……なに?」
ナオヤくんは私に、ベッドの横に来るように示した。ベッドサイドには椅子が一脚あり、そこに座るよう勧められた。
「何が聞きたい? ナオヤくんが先でいいよ」
ナオヤくんは小さくお辞儀をすると、ゆっくりと、言葉を紡ぎ出していった。
「愛さんは、あなたにとって、どういう存在でしたか?」
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