11人が本棚に入れています
本棚に追加
何がなるほどなんだろう。妙なところで納得するな、とこっちが首を傾げたくなる。
だけど考え込んでいるその横顔は、確かに、昔見た深海尚也くんそのものだった。過ごし方によってはまったくの別人になる可能性だってあるクローンだけど、やっぱり同じ部分もあるみたいだ。
そんなことを思ってその横顔に見入っていると、ふいに、その視線がこっちに向いた。
「!」
思わず目を逸らせてしまったけれど、逆に彼はぐいぐい顔を寄せてきて、私の顔を覗き込んだ。
「つまりあなたは、『天宮 愛』のプロトタイプということですね」
「……え?」
「『愛』本人は既にいません。そこで『愛』という人間を完成体と考えて、あなたはそれに近づこうとしている。つまりあなたは、まだ試作段階のプロトタイプということではないですか?」
言っていることが、わからない。というよりも、理解したくないと脳が言っている気がする。
「……そういう、いきなり突拍子もないこと言い出すところは尚也くんと同じだね」
「そうですか?」
そうだよ、と心の中で返す。尚也くんも、いきなり何か思いついては皆を振り回していた。だけど、不思議と嫌じゃなかった。彼の案に乗った皆は、誰一人として嫌な顔をしていなかったのを覚えている。もちろん愛も、私も。
「そうか……そうなんですね。尚也が発起人となって集団で行動した記憶はいくつかありましたが、やはり自分では突拍子もないことを言ったという自覚がないようですね。そう思われていたとは……自覚がないとはいえ、振り回して申し訳ありませんでした」
「いえいえ、ナオヤくんが謝る事じゃ……」
そう言いかけて、迷った。そう言ってしまっていいのか、否か。
だってそう言ってしまうと、尚也くんとナオヤを切り離すことになる。それそのものは正しいのだけど、ナオヤの意識としてはどうなんだろう。
「そうですね。僕もまだまだプロトタイプのようだ」
「……え??」
「やはり1年足らずではラーニングは不十分ですね。もっとインプットし、照合していかなければ」
傷つけたわけではなさそう。だけど……思っていた反応とは、何か違う。そして妙に前向きだ。
「提案なのですが、協力していきませんか?」
「な、何を?」
「互いに、オリジナルを再現するために、です」
無表情なのに、今日一番というくらい、キラキラした瞳でそう言われた。それはますます以て、昔の記憶と重なってしまって、目を逸らせなくなってしまう。
正直、この目から逃げたい。だって、このまま見つめられたら……
「わ……わかった……」
ああ、言ってしまった。
本当は、そんなこと思っていないのに。放っておいてほしいのに。『愛』を目指すのに、この人の手を借りたくなんてないのに。
だけど、あの人……深海尚也くんと同じ柔らかな笑顔で、右手を差し出す姿を見て、諦めた。
敵いそうにない。
私は、ため息はなんとか飲み込んで、差し出された手をそろりと、握り返した。
最初のコメントを投稿しよう!