13人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの時言った言葉の理由でしょう? 今お話しした通りですが……」
「ナオヤくんが私を突き放したいってことは、わかった。でも、あの時話していたことまではわからない。どうしてあんな……悲しい生い立ちのことまで話して、離れようとしたの?」
「だから、僕とあなたは違うから……」
「そんなの……加地くんや弓槻さんだって違う。でも一緒にいてくれるし、私だって一緒にいたい。そこにナオヤくんが入れない理由なんて、全然ないじゃない」
「……あります」
「ないよ! 私たちを巻き込んだくせに、なんで勝手に決めて距離を置こうとするの!」
「それは……!」
ナオヤくんが、僅かに声を荒らげる。その時、ベッドサイドから声が聞こえた。
『深海さん、心拍が乱れてますよ。問題ありませんか?』
看護師さんの声だ。心拍がナースステーションでチェックされているらしい。
見ると、ナオヤくんは息を切らせていた。
しまった、興奮させてしまった……。もしものことがあったら、と思うと背筋がヒヤッとして、そして、何も言えなくなってしまった。
呼吸を落ち着かせたナオヤくんは、ベッドサイドのコールに向けて応答した。
「大丈夫です。お気遣いなく」
『……ああ、戻ってきましたね。気をつけてくださいね。あと……お見舞いの方、そこにおられますね? もうすぐ面会時間が終わりますから、できればご退室願えますか?』
私は、「はい」とだけ答えて、荷物を持った。
ナオヤくんと顔を合わせることもできないまま、私は「じゃあ」と言って、病室を出た。
廊下に出たら、一気に胸が重たくなった。ドアが閉まったのを確認すると、立っていられなくなって、しゃがみ込んでしまった。
どうして、あんなことを言ってしまったんだろう。彼が私たちには想像できないような重いものを背負っているのはわかっていたのに。
子どもみたいに駄々をこねただけじゃないか。ただでさえ苦しい中、更に責めてしまった。
「どうしよう……」
家と同じように、病室も完全防音になっている。中にいるナオヤくんに今の呟きは聞こえない。だけど、同じ廊下にいる人には聞こえる可能性もある。
「天宮ヒトミさんね」
聞き覚えのある声が降ってきた。私のぼそぼそした声を掻き消すように、その声の主は近づいた。
ナオヤくんの、お母さんだ。仕事帰りなのか、以前のようにスーツ姿だ。
その凜とした面立ちのまま、私を見下ろし、言った。
「もう遅いから、送っていくわ」
断れないような気迫が、その声には籠もっていた。私は、無言で頷きだけ、返していた。
最初のコメントを投稿しよう!