君はプロトタイプ

chapter5 あなたたちとは違う

　おばさんの言ったことが理解できなくて、一瞬、頭から離れていきそうになった。だけど、必死に考えた。
「同じ速度で成長……ということは……」
「他の人の15倍ほどの速さで年を取るということよ」
　15倍……それがどれほどか想像もつかなくて、何度も瞬きとあえぎ声を繰り返していた。
　他人の15倍……それはつまり、1年で15歳ほど年を取るということ。だからナオヤくんは今、17歳くらいになっている。
　だけどこれからは？　その速度のままということは、2年経てば30歳くらいということ？　3年経てば？　4年経てば？　10年後は……そう考えて、思考を止めた。
　考えたくない。10年後には、いなくなっているだなんて。
「そんな……それって……」
「人の老化を自由に操る技術なんて存在しない。1年で人間を16歳にするなら、遺伝子情報を操作して、寿命および老化速度を変えるしかなかった。そして一度変えたものを元に戻すことは不可能……だそうよ」
　頭の中がガンガン打ち付けられているみたいだった。
　昔、お父さんの会社の人が家に来て打ち合わせていた会話を聞いたことがある。ちょうど、おばさんの話した技術者の言葉と同じような物言いだった。
　だけどお父さんたちが扱っているのは、あくまで玩具や機械。おばさんが聞いたのは、人間の……ナオヤくんの話のはずなのに。
「それに加えて、さっきも言ったいくつもの臓器不全の併発、筋力や骨の疾患も……あの子は、生まれながらにしてたくさんの不幸を背負ってしまった」
「でも毎日学校に来てました。放課後には寄り道までして……」
「メディカルチェックを綿密にして、医師の許可が下りているからよ。それだって、奇跡的な状態と言われたわ。いつ学校生活に耐えられなくなるか、わからないって……」
　だから、おばさんはあんな顔をしていたんだ。私たちに敵意を向けるのも当然だったんだ。あの時のおばさんの立場ならきっと、私たちは何も知らずに彼の体を疲弊させているようにしか見えない。辛すぎるもの、甘すぎるもの、長距離の移動、雨に濡れる、興奮状態にさせる……どれもこれも、ナオヤくんの体が避けた方がいいことばかり。
　これも、私にはわかる。だって、愛と似た状態だから。
「高校卒業までは何とか可能かと思ったけど、この状態だとわからないわね」
「……だからナオヤくんは、私たちとは違うって言ったんですね」
「そうよ」
　思わず、言葉に詰まった。喉の奥に風穴が空いて、声も空気も逃げていくようだった。息ができない。自分の言った言葉が、とった態度が、あまりにも浅はかすぎて、息もできない。
　知らなかったことだし、ナオヤくんはできる限り隠したがっていたことだ。だけど、それにしたって、私は何てことを言ってしまったんだろう……！