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さっき走ってきた道を戻って、再び病院にやって来た。昼に来たときとは違って、夜間通用口から入る。本当ならそこは、家族以外は通れないらしいけれど、おばさんが説明して特別に通して貰った。
職員さんの姿も見えない暗い廊下を、おばさんと二人で進む。二人分の足音だけが響いている様子は、ちょっと不気味だ。以前、愛のお見舞いに行った時のことを思い出す。愛と一緒に、ほんのちょっと肝試し気分になっていたんだった。
同時に、可哀想だと思っていた。
こんなに静かな中で、愛は一人でいなければいけないんだから。そしてそれは、ナオヤくんも同じ。
いったい何度、こんなに静かな夜を過ごしてきたんだろう。
愛を訪ねた時と同じで、きっと病室のドアを開けると、ベッドに腰掛けて空を眺めているんだろうなって……そう思っていた。
だから、驚いた。
おばさんが病室のドアを開けて、中に入ると、ベッドにナオヤくんの姿がなかったから。どこに行ったのかと二人して室内をきょろきょろ見回すと、ふいに至近距離から声が聞こえたのだった。
「こっちです」
彼は……ナオヤくんは、応接セットのソファに腰掛けていた。ふわりと立ち上がると、身に纏うものまで見える。
昼間着ていた入院着じゃなく、高校の制服だ。髪もきれいに櫛を通し、いつものナオヤくんとして、そこに立っている。
いつも通りなら何も驚かないけれど、今は、違う。
「ナオヤくん、どうしたの?」
「ナオヤ! 寝てなきゃ……!」
「ご心配なく。ずっと寝ていたので、この通り元気です」
ニッコリと笑ってそう言うけれど、声に張りがない。暗くてよく見えづらいけど、昼間は顔色だって悪かった。いきなり元気になるはずなんて、ない。
「いいから、横になりなさい。点滴は? 外したの?」
「栄養剤だけだったので、平気です」
やんわりと微笑んでいるようで、ナオヤくんの態度はどこか頑なだった。なにか、おかしい。
「ナオヤくん、何をしたいの?」
そう問うと、ナオヤくんは機械のように視線だけをこちらに向けた。
「呼び戻して、何を言いたかったの? おばさんと私の話を聞いてたんだよね? 何か、あるの?」
ナオヤくんは、静かに「ありますよ」と答えて、そして、おばさんと私に向けて、深々と頭を下げるのだった。
「これまでお世話になりました。僕は、あなた方の前から消えます」
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