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「ひ、ヒトミさん?」
「ありがとう」
そう言うと、ナオヤくんは目を丸くしていた。
「私も、目を背けてたって気付いた。だから、わかったことがある」
「何を、ですか?」
「私たちは、同じだってこと」
ナオヤくんは、辛そうに顔を歪めて、そっと視線を逸らせてしまった。
「違いますよ。あなたはもっと……」
「同じだよ。私もナオヤくんも、オリジナルになる以外の道を知らない。なのに自由なんて言葉を都合良く使って、放り出そうとしてる親に怒ってるの。自分たちが、灯りなんて一つもない真っ暗闇の世界に捨てられるような気がして、怖いんだよ」
「真っ暗闇……」
頷くと、彼の心臓が大きく跳ねたような音がした。
「それに、怖いあまり、ナオヤくんも目を背けてる」
「僕が?」
「私たちは、たぶん、もうただのクローンじゃない。誰かの代わりじゃない。おばさんも……たぶん私の両親も、何も知らないところに捨てようとしてるんじゃない。ちゃんと見守ろうとしてくれているよ。でも怖くて仕方がないから、自分は厄介者で一緒にいる資格がないから捨てられるんだって思い込もうとしてる」
ふと顔を上げると、ナオヤくんはじっとおばさんを見つめていた。そこには戸惑いが浮かんでいた。怖い、けれど信じたい……そんな二つの思いがせめぎ合っているように見えた。
もう一度、彼を包む腕にぎゅっと力を入れた。伝わっているだろうか。
「ちゃんと気付いて、受け止めよう。ナオヤくんは、大事に思われているんだってこと」
思い切り抱きしめてから、手を離した。だけど自然に、ナオヤくんは私の手を握っていた。その手は震えていたけれど、視線は、おばさんから逸らしていなかった。
「大事に……そう、思ってもいいんでしょうか?」
「……ええ」
おばさんは、大きく頷いた。それでもナオヤくんは、まだ迷っていた。
「僕は……尚也じゃない。尚也になれない。それもかなり……失敗作です。それでも?」
おばさんがもう一度、頷く。
「あとほんの5年ほどしか生きられない、できそこないでも? その間も、きっと体が弱くて何も満足にできないのに? 僕は……僕は、尚也として作られたというのに……!?」
おばさんは、唇を噛みしめて何か言葉を飲み込んだ。そして、頷いたりする代わりに、カバンの中から何かを取り出した。
ビジネス用の大きめのタブレット端末で、書類や資料が、たくさん表示されていた。
そこに書いてある文字を、ナオヤくんと私で、一つずつ拾い上げていく。
「『細胞再生手術』『遺伝子治療による老化抑制』『臓器不全改善治療プラン』『移植出術案内』それに……『個人籍登録』」
「これは……」
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