chapter5 あなたたちとは違う

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 たくさんある。たぶん、これからのナオヤくんに必要なものが、揃っている。  その意図するところをすぐには理解できなくて、私たちは揃っておばさんの方を見た。おばさんは目尻に滲んでいたものを拭い去って、凜とした空気を纏い直して、言った。 「あなたは、色々な治療を受ける必要があるわ。この病院と、提携している他の専門医院にも話を聞いて、いくつかプランをまとめてもらったの。それらを試行しながら、もう一つ……やることがある」 「もう一つ?」 「尚也の、お葬式をしましょう」  それはつまり、深海尚也くんの死を公表するということ。表向きはナオヤくんが『深海尚也』ということになっているから、ナオヤくんの立場が揺らぐということになるのだけど…… 「そして、あなたの個人籍を登録しましょう」 「僕の……籍? でも、生まれ年など、色々と齟齬が……」 「そこはまだ相談中。だけど絶対にやり遂げるから。それこそ金に物を言わせてでも、罪に問われたとしても。あなたの存在を、この世界にきちんと証明してみせる。どうか信じて。あなたの母親からの命令……いえ、お願いよ」 「母親……?」 「そうよ。嫌?」  ナオヤくんは、ふるふると首を横に振った。だけど、真正面から顔を見られないみたいだった。 「あの日……僕が初めて『帰宅』した、あの時……あなたは僕を見て喜んでいた。でも話してみると驚いて、そして失望していた。憤ってすらいた……あの時、自分には『尚也』である資格がないのだと、思いました。それなのに、あなたは僕の母親でいてくれるんですか?」   尚也くんのそんな問いかけを聞いて、おばさんはまた涙を浮かべていた。そして、たまらない、というように尚也くんを抱きしめていた。  尚也くんも、そろそろと、抱きしめ返している。 「酷い母親で、ごめんなさい」 「僕こそ、できそこないの息子ですみません」 「……尚也だってダメなところはたくさんあったもの。似たようなものよ」 「じゃあ、お母さんも」 「……そうね。お互いに、これから……よね」  二人は、きつく抱きしめあっていた。目尻から零れた涙がお互いの肩口を濡らしていたけれど、どちらもそんなこと、少しも気にしていない。お互いの涙を、受け止め合っていた。  ナオヤくんの片方の手は、私と繋いだまま。涙が溢れるにつれて、手に籠もる力も、強くなった。  その手を握っているだけで、私まで、胸の奥に降り積もった冷たい雪が、じんわり溶けていくようだった。
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