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おそるそおる、といったように口を開いたのは、加地くんだった。
「深海、お前……」
「はい」
「それ……悪いけど、すっげえつまんない」
「……え?」
意外そうな声を上げるナオヤくんを置いて、弓槻さんもそろりと言う。
「ごめん、私も……ウケない」
「え?」
助けを求めるように、私を見るナオヤくん。だけど思わず、目を背けてしまった。
「おかしいな……ヒトミさんは大笑いしてくれたんですが」
「まぁ……笑いのツボは人に依るし」
「どうしよっか。ウケる一票、ウケない二票かぁ」
その瞬間、思わず叫んでいた。
「え、今の話……スルーするの!?」
思い切りクローンだってバラしていたような……知らず、視線が泳いでいたように思う。だけど加地くんも弓槻さんも、キョトンとしていた。
「え、知ってるよ? この深海くんがクローンだって」
「てか、あの時廊下で話聞いてたし。その後にも折を見て、ちゃんと話してくれたし」
「そう……なの?」
そうだった。ナオヤくんが過去を色々と話してくれて倒れたあの時、二人は聞こえる場所にいたんだった。
聞いていたのか、知っていたのか……確認してみたかったけれど、もしも知らなかった場合、私が秘密を話してしまうことになる。それは、とても良くない……そう思って、話せずにいた。幸い二人も何も聞かないまま、普段通りに接してくれていたから、その件について気にしなくなっていたんだった。
だけど何も聞かなかったのは、ちゃんと本人から聞いたから、ということらしい。
私一人、隠し事をしているようで心苦しかったけれど、もう気にしなくていいということか。
「そっか……そうなんだ……」
ちょっとだけ、胸の奥が軽くなった。それはつまり、二人がナオヤくんを受け入れてくれたということ。私に言ってくれたのと同じように。
考えてみれば当然かもしれない。だって、加地くんと弓槻さんなんだもん。
なんだかすぅっと肩の力が抜けて、重かった息をすべて吐き出せた気がした。
そして、『誰かを笑わせる』の項目にそっと指を触れ、線を引いていく。
「私は、やっぱり面白かったかな」
「そ、そうか……まぁそう言うなら、それでいいか」
「一人でもそう言うんなら、まぁいっか!」
三人揃って、クスッと笑って銭を引いた。
ただ一人、ナオヤくんだけが少し不服そうだったけれど。
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