chapter6 約束

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 ざぁっと、穏やかで力強い音が聞こえた。風に揺られた波が、今度はゆったりと浮かぶヨットをゆりかごのように優しく揺らしている。  真っ赤な光が、海もヨットも公園の木々も、色んな色をすべて茜色に染めていく。海辺に並んで立つ、私とナオヤくんも、真っ赤に染まっていた。 「すみません。散歩に付き合ってもらって」 「いいよ。ここ……好きだし」 「僕もです」  加地くんと弓槻さんが帰る間際、ナオヤくんは私だけ呼び止めた。一緒に行ってほしいところがある、なんてもじもじして言われたら断れるわけがない。断るつもりなんて毛頭ないけど。  なんだか照れくさいながらも、二人で並んで歩いていった先は、あの海浜公園。  私とナオヤくんが出会った、あの場所だ。そして時間も、出会ったあの時と同じ夕暮れ時。  神様が用意してくれたように、思ってしまった。 「綺麗ですね」 「うん」 「今日は、動画は撮らないんですか?」  出会ったあの時撮っていた、あの自己紹介動画のことを言ってるらしい。 「あれは春休みの課題。もうとっくに提出したよ」 「そうでしたね。でも、もう一度、撮ってみませんか?」 「え、今?」  ナオヤくんは頷くと、自分のリスト端末を操作して、画面を調整し始めた。 「尚也は……船に乗っているのが好きでした」 「……うん」 「船に乗っていると、街や陸地から離れて、空と海しか見えなくなる。自分が一番、あの夕日に近くにいる気がする……そう言っていました」 「深海くんらしいね」  確かに、深海くんは眩い存在だった。きっと誰よりも太陽に近い人だった。愛も、その眩さに惹かれていた。 「でも、僕はここから見る夕日が好きです。ここにいると、太陽が皆を照らしているのだとわかる。独り占めはできませんが、皆と共有できる……そう、感じることができるんです」 「そっか……そうだね」  なんとなく、わかる気がした。だから私も、ここに来るのが好きだったんだ。ここなら、一人の女の子としていられたから。  そう感じると、いつも、愛の笑顔が思い浮かぶ。 「……愛はね、星が好きだった」
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