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「はい」
深海くんにも、何度も星のことを話していた。深海くんが星空の写真集を持ってきてくれて、二人で眺めていたのを覚えている。
「愛は、あんまり遠出とかできなかったけど、代わりに星が動いてくれるんだって言ってた。車や電車でも行けないような遠い場所の光なのに、病院のベッドからでも見られるって」
今の世界の空は、すべてスクリーンによる作り物。大昔に見えていた星の位置や動きを再現して映し出しているだけなんだとか。
でも綺麗に見えるなら、むしろ作り物の方がいいかもって、愛は言っていた。
「ヒトミさんも、星が好きですか?」
少しだけ考えて、首を横に振った。
「実は、よくわからなかった。綺麗だとは思うけど、光の粒にしか見えなくて」
「……確かに」
「私は、この夕日の方が好き」
もう一度、真っ赤な海に目を向けた。燃えるようでいて、でもどこか甘く優しい色合いに見える。
「照らすもの全部、真っ赤に染めちゃうでしょ。それも強引に塗りつぶされるんじゃなくて、ヴェールで優しく包み込まれるような……そんな感じがするから、好き」
「……はい。いい画いただきました」
「え!?」
見ると、ナオヤくんはリスト端末のカメラをこちらに向けたまま、なんと録画モードにしていた。
「や、やめてよ! なんで撮るの」
「とても自然な、僕ら自身のことを話せていたと思います」
「だからこそ恥ずかしいんだけど……!」
抗議の声を向けると、ナオヤくんは録画を停止してくれたみたいだ。かと思ったら、早速再生している!
「もうやめてよ!」
「いえ、やっぱり違うなと思って」
ナオヤくんは、私が思い出に浸って語る場面を繰り返し見ている。
「僕の脳には愛さんの記憶も残されていますが、やっぱりあなたとはぜんぜん違います」
「そりゃ、そうだろうけど……」
「ヒトミさんの方が、綺麗です」
「……へ!?」
今、なんて言った?
振り返って凝視していると、ナオヤくんの方が首を傾げて尋ね返した。
「なぜ驚くんです?」
「そ、そんなこと……初めて言われたもので」
「そうですか。でも事実です」
何度瞬きしても、何度尋ね返しても、ナオヤくんは意見を曲げない。あまりに平然と、何度もそう言い続けるから、こっちが恥ずかしくて焼け焦げそうになってくる。
「僕は、明るくて誰にでも優しく、尚也を好きでいてくれた愛さんには感謝しています。でも、僕と一緒に『実験』をしてくれたのは、ヒトミさんです」
ナオヤくんのまっすぐな視線に、射抜かれるようだった。その視線に縫い止められて、目を逸らすことはできなかった。
「……すみません。心拍数が上がってしまうので、一気に言いますね」
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