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「え?」
「僕にとっては、一緒に寄り道をしてくれて、辛いものを食べて、甘いものも食べて、共通の友人ができて、海に行って、泊まりで遊んで、それに……」
一度、言葉に詰まったようにうつむくナオヤくんは、だけどすぐに顔を上げた。目にいっぱいの涙をためて。
「母と僕の、溝を埋めてくれた……! そうしてくれたのは、愛さんでも誰でもない。あなただ」
ナオヤくんの手がそろりと私の手に触れる。それまでの声音から受ける印象とは真逆の、か細くて、優しい触れ方で。
おそるおそる、その指をちょこんと握る。すると最初は柔らかく、そして徐々に力をこめて、握り返してくれる。
「ぼ、僕は……その……たぶん、人並みな言葉で恐縮ですが、えっと……できればもっとずっと一緒に実験を続けたいと言うか、実験以外でも一緒にいられたら……友達でいられれば僥倖なんですが、それだけで満足しない自分もいてですね。だから、良ければこれからも定期的に一緒に夕日を見るとかそういったことを二人だけでできればと思った次第で……」
ものすごく、一気に喋り倒している……。息継ぎなしにこれだけ喋る方が心拍数が上がるんじゃないんだろうか。
むしろ心配になるけれど……その見たことないくらい真っ赤な顔に、胸の内で、何かが動いた気がした。扉が開いたというか、重りがついたように動かなかった足が、一歩踏み出した……というかのような、何かが動いた気配。
「ナオヤくん」
「はい」
耳まで赤いナオヤくんの顔を覗き込みながら、徐々に、近づいていった。そして、両手を広げて、彼の体をふわっと包み込んだ。
「ふぇ……っ!?」
こんなにも戸惑う声も、珍しい。だけどすぐに、彼はたどたどしく、私の肩にそっと手を添えた。そして……
「好き、です」
彼の声が、消え入りそうだった。だから消えないうちに、私も答えた。
「うん、私も」
息を呑む声が、耳元で聞こえる。
好き。
ようやく、わかった。理屈じゃなくて、心に直接突きつけられたように。
「私……ナオヤくんが好き。深海くんに似ているからじゃない。ナオヤくんが、今まで会った誰よりも優しくて、繊細で、そして自分の命や運命と向き合う勇気ある人だから。世界で一番、凄い人だと思うから」
「それは……過大評価です。僕は、あなたがいなければ何もできませんでした」
それは違う。背中を押されて、揺り動かされていたのは、いつだって私の方だ。彼が一歩踏み出す勇気を見せてくれるから、知らなかったことに気づけた。
そして、もう一度だけ、甘えたいと思ってしまっていた。
「……あのね、お願いがあるの」
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