chapter6 約束

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「何ですか?」  そう言うと、一旦離れて、リスト端末を操作した。そして私と彼の間に、『実験リスト』を表示させる。  さっき加地くんや弓槻さんたちと話し合って、項目がだいぶ増えている。その、最後にもう一行付け足した。 「これは……」 「これを実行するのは、私だけ。ナオヤくんも、弓槻さんも加地くんも、やる必要はない。だけど……勇気がほしい。一人だけじゃ、できないかもしれないから」  リストと、私と、ナオヤくんは交互に見て、ほんの少し眉を下げていた。色々と、心配をかけているんだろうと思う。  だけど、私がやらなきゃいけないことだ。そして、ナオヤくんとおばさんの姿を見て、私も立ち向かわないといけないと、そう思った。  勝手なお願いだったかと、不安になって顔を上げると、そこにはナオヤくんの穏やかな笑みが待っていた。清流のような、曇りのない面持ちだった。 「僕の勇気なんて、あなたに比べれば微々たるものだ。それでも良ければ、ありったけ持って行って構いません」  そう言うと、今度はナオヤくんが大きく両手を広げて、私をまるごとすっぽりと腕に収めてしまった。そのまま、ぎゅぅっと、力一杯締め付ける。 「うっ……痛い痛い! 強い!」 「ありったけの勇気なので」 「ありったけじゃなくていいよ。ちょっとでいい、ちょっとで!」  笑い声と共に、ほんの少し腕が緩まる。一瞬絞め殺されるかと思ってじろりと睨み上げるけど、すぐに、やっぱり笑ってしまった。  片手でリスト端末を操作する。もう一つの、二人だけのファイルをそっと開いて、指でそっと、3本線を引いた。  リストに残っていたうちの、3つ。 『きれいな夕日を見る』『強く抱きしめる』『心から「好きだ」と言う』……この、3つに。 「……どうか、頑張って」 「うん……ありがとう」  そう答えて、私は……私たちは、お互いにもう一度強く、互いの温もりをその腕に刻みつけた。
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