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琥珀色の液体がロックグラスの中に揺らめく。
ウイスキー特有の、華やか且つほろ苦い香りが室内に広がった。
「……美味い」
グラスに注がれたウイスキーを一口飲んで、神里は感嘆の声をあげる。
「芳醇な香り、深いコク、どれをとっても最高だ」
「良かったですね」
「お前さんもどうだ? ん?」
「僕は遠慮しておきます」
「つれない奴め」
そう言って神里はもう一口、ウイスキーを口に含む。舌でよく味わいゆっくりと飲み込むと、そのグラスをテーブルの上に置いた。
そうして向かい側に座る藤本の方を見る。
「さてと」
一呼吸置いてから、少し改まった様子で神里は口を開いた。
「さっきの話なんだが」
「立永さんのことですか」
「ああ。少しばかり長い昔話になるが、良いか?」
「はい」
「そうか。じゃあ、話そう」
神里の顔から笑みが消える。
それから静かに語り始めた。
「ちょうど7年前の今頃のことだった。千葉県のとある小さな町で
当時17歳の少年が殺害されるという事件が起こった」
「7年前?」
「俺がお前さんと出会うより少し前のことだ」
少年にとって、それは高校3年生になって間もない頃だった。
コンビニでアルバイトをしていた彼は、普段なら夜の10時頃には自宅に帰っていた。しかし、その日は11時になっても12時になっても帰ってこなかった。連絡もつかなかった。
少年は真面目な子で、これまで無断で外泊するようなことは無かった。
心配した両親は警察に相談し、自ら息子の捜索に乗り出した。
そうして数時間後、少年は発見された。
アルバイト先のコンビニから少し離れた所にある雑木林の中で遺体となって発見された。体には無数の痣や傷があり、酷い暴行を受けた末に命が失われたものと思われた。
夜中の出来事であったことと、防犯カメラが不十分な地域だったことから捜査は難航した。そこで警察は、犯罪心理学の専門家である神里に捜査協力を依頼した。
神里の分析によって犯人はあっさりと割り出され、逮捕された。
犯人は、なんと被害者と同じ17歳の少年たちだった。
被害者は、アルバイトの帰りにて3人の少年に因縁をつけられた。
そして、雑木林に連れ込まれて殴る蹴るの暴行を受けた末に、命を落とした。
彼らに面識は無かった。だから、何の恨みも無いはずだった。
犯人たちは、「イライラしてたから」というだけの理由で被害者をいたぶり、死に追いやったのだった。
「その少年の名は立永大悟」
「立永?」
「そう。さっきここに来た立永さん──立永留一さんは被害少年の父親だ」
「そう……だったんですか」
人の良さそうな笑みを浮かべるあの男性の顔を思い出して、藤本は顔を曇らせる。神里はテーブルの上のグラスを手に取り、中のウイスキーを少しだけ口に含んだ。
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