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「よし、決めたぞ」
「何をですか?」
「ここで作って食う」
「は?」
「聞こえなかったか? ここで唐揚げを作る。そして食うんだよ。
幸い、キッチンスペースには調理器具も揃ってるしな」
神里の言う通り、この研究室には小規模だがキッチンスペースが併設されている。主にコーヒーを作ることに使われているのだが、偶に簡単な料理を作ることもあるのだ。
「そういうわけだ。藤本、今すぐ材料を買ってこい」
「え?」
「今は11時過ぎだから、12時ぐらいには戻れるだろう。
そこから作り始めて1時には食えるようにしろ」
「あの、もしかして作る作業も全部、僕にやらせようとしてません?」
「当然だ」
「えぇ……」
「何だ、不服そうだな」
「だって……」
何か抗議をしようとした藤本に向かって、神里はビシッと人差指を突き出す。
「おい、藤本。テメェの肩書きを言ってみろ」
「大学院生です」
「それもだが、もう一つあるだろう? 大事な肩書きが」
「えーと……コンビニのアルバイト店員」
「違えよ! 助手だろうが! 俺の!」
「あ、はい。院生助手をやらせてもらってます」
「そうだ。つまり、俺はお前さんの上司ってわけだ。
そんな俺からの命令なんだから、黙って従うのが筋ってもんだろ」
「えぇ……」
「ほら、分かったらさっさと行ってこい。上官命令だぞ」
「いつからここは軍隊になったんですか」
「つべこべ言うな」
「はいはい」
ため息混じりに藤本は椅子から立ち上がった。書きかけの論文を中断してパソコンをスリープモードにする。
(せっかく筆が乗ってたのになあ)
心の中で愚痴をこぼしつつ、研究室を後にする。
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