(13)教授、気付いてしまう

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(13)教授、気付いてしまう

 警察署に足を踏み入れると、何人かの先客がいた。  一階の総合案内所の待合ロビーにて、彼らは思い思いに時間を過ごしている。  落とし物の届出、車庫証明の発行、近隣トラブルの相談……等々。  それぞれ事情を抱えつつ、自分が対応してもらう順番を待っているようだった。  警察も公務員の一端であるからか、その光景は役所さながらである。  そんなロビーの片隅に立ち、神里と藤本は人待ちをしていた。 「神里先生、お疲れ様です」  廊下の奥から現れたのは、スーツ姿の女刑事・千波京子(せんなみきょうこ)だった。  常に凛としている佇まいは、実に生真面目な彼女らしい。  千波は神里たちの姿に気付くと、微笑んで近寄ってきた。 「突然呼び出したりしてすまんな、千波刑事」 「いいえ。先生にはいつもお世話になってますから」 「そう言ってもらえると助かる」  お互いに軽く会釈して、三人は向かい合った。 「それで、今日はどうされたんですか? わざわざ署にまでいらっしゃるなんて」 「昨日受けた相談についてなんだが」 「ああ、蒲生温人の件ですね」 「そうだ。奴が逮捕されたと聞いてな。確認に来た」 「そうでしたか。お陰様で無事に逮捕できました」  そう言って神里に一礼すると、千波は藤本の方に目を向けた。 「藤本君、貴方のお陰よ」 「え?」 「貴方の目撃証言のお陰で、蒲生の行方について早い段階で特定できたの」 「ああ……」  昨日の昼頃、偶然にも藤本は新宿駅の近くで蒲生温人と出くわした。  それは、彼の行方を追っていた警察にとって有益過ぎる情報だった。  該当する時間の防犯カメラなどから蒲生の移動先を特定し、今日の逮捕に繋がったのだ。 「本当にありがとう」 「いえ、そんな……」  千波から感謝の言葉を受けつつも、藤本は困惑気味に俯いた。  そんな彼を後ろにして神里が話を続ける。
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