(13)教授、気付いてしまう

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「蒲生温人はどこで見つかったんだ?」 「千葉県です」 「そりゃまた随分と近場に居たんだな」 「ええ。館山駅近くのビジネスホテルに滞在していたところを取り押さえました」 「館山?」  神里は首を捻った。 「東京からの逃亡先としては妙だな。館山方面に頼れそうな知人でも居たのか?」 「いいえ。そういった情報は無いですね。  と言うより、本人からはまだ何も聞き出せてないんですよ」 「何も?」 「はい。比橋尚真の殺害は認めているのですが、それ以外のことは何も」 「ほう」  首を傾げる神里に、千波は更に説明を続ける。 「元々、供述に曖昧なところがあったので、  ちょっと詰めて聞いてみたら黙ってしまったんです」 「供述が曖昧ってのはどういうことだ?」 「最初、動機につい質問した時は“仕事で荷物を届けに行った際に態度が悪いと文句を言われてカッとなって殺した”、と言ったんです」 「まあ、なくはない話だな」 「続いて凶器について質問したら、“とにかく殴った”と言うんです」 「何を使って殴ったのかは言ってないのか」 「はい。聞いても教えてくれず、“とにかく殴った”と言うばかりで」 「そうなのか。因みに、凶器の特定は出来ているのか?」 「いえ、それがまだ。それなりの重さがある何かで何度も殴っているのは確かなんですが、その正体についてはまだ分かってないんです」 「ふむ、そうか」 「そして極めつけは犯行時刻なんですよね」 「犯行時刻?」 「はい。検死の結果、比橋尚真の死亡推定時刻は  4月23日の午後7時から10時の間と判明したんです」 「……犯行が行われたのは23日の夜だったのか?」 「はい」 「蒲生が比橋尚真のアパートに荷物を届けに行ったのは  24日の午前中のことだったよな?」 「はい。正確には午前10時30分ですね」 「その時に、比橋尚真から態度のことで文句を言われてカッとなって殺してしまった……と、蒲生はそう供述したんだったよな?」  あからさまな矛盾に神里は眉根を寄せる。  心得たように千波は頷いた。 「そうなんです。おかしな話でしょう?」 「ああ、おかしいな」 「当然、私も取調べの中でその矛盾を指摘しました。  そしたら黙ってしまって……それ以降は何も教えてくれなくなったんです」 「比橋尚真の殺害だけは認めて、他のことは何も話さなくなったのか」 「はい」  深いため息とともに千波は頷いた。  どうやら彼女も、取調べに行き詰まりを感じているらしい。  そんな中、神里が口を開いた。
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