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「あっ……!」
「うわっ!」
突如現れた人影とぶつかった。
相手の方に勢いがあったのか、藤本は派手に転けた上、買い物袋の中身を路上にぶち撒けてしまう。
「いたた……」
手で体を支えながら顔を上げる。すると、まだ20歳にもなってないような若い男が蹲っているのが見えた。彼もまた転けていたらしい。更に、黒いショルダーバッグの口が開いていて財布や鍵などがその辺に散らばっていた。
「す、すみません。慌ててまして……」
「いえ、こちらこそ。ぼさっとしてました」
「すみません、すみません」
男性は何度も謝りながら散らばった荷物を拾う。その様子から、気が小さくオドオドとした印象を受けた。
そうしてお互いの荷物を拾う中、藤本は目の前に落ちていた小さなクッキー缶に気付く。おそらく相手の物だろう。そう思って拾おうとした時、男性が物凄い勢いで手を伸ばしてきた。
「あ……」
まるで奪い取るぐらいの勢いだったので、思わず藤本は困惑する。
男は焦ったような顔をして頭を下げた。
「す、すみません! これ、大事なものなんです」
「はあ……そうですか」
クッキー缶をショルダーバッグの中に収めると、男は慌てて立ち上がった。そしてもう一度頭を下げる。
「すみません、急いでるんで失礼します。本当にすみませんでした!」
「あ、いえ……」
藤本が返事をするより先に男は駅の方に向かって走り出していた。よほど急いでいたのだろう。
行き交う人々に紛れ、あっという間にその姿は見えなくなってしまった。
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